ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年1月28日月曜日

ワーク・フローとパイプラインを考えてみる その5

今回の「ワーク・フローとパイプラインを考えてみる」シリーズは、韓国のCGプロダクションで働いている友人からの質問に答える形で書かせて頂いたのですが、その友人から、第1回で説明した組織の構成と肩書きについて、もう少し詳しく説明してほしい、との要望をもらいました。実はこの各職種の肩書きと役割、その上下関係に関する質問は、私がこの業界の友人、知り合いから頂戴する質問の中でも、かなり頻度の高いものの一つです。自分たちの作品が海外に出ていったり、海外のプロダクションと協業したりする場合に備えて、国際的に通用するような組織構成と肩書きを持っておこうという考えはよいことだと思います。

ただ、頂く質問の中には、非常に厳密さにこだわるものもありまして、その肩書きの細かい仕事内容(TDはエクスプレッションを書くのか等)、組織内のヒエラルキーの中でどんな役職があるか(VESのガイドライン並みの長いリストが送られてきて、全てチェックしてほしいとのご要望もありました)等、私自身答えに窮するものもあります。このシリーズの最終回では、肩書きに関する補足説明を出来る限りさせて頂いて、ひとまず終わりとさせて頂きますが、ここに書き出したものは、あくまで私の個人的な見解であるということをご理解ください。上記しましたような厳密な質問に答えるのは非常に難しいものがありますし、人によってかなり見解が変わることもあるかと思います。ここは私のブログですので私の個人的な見解を書かせて頂きますが、厳密さにこだわるのであれば、後述する連絡先にお問い合わせされることをお勧めします。

まず組織図を描いてみましたので、こちらをご覧ください。



なんと、ダイアグラムを描くiPad用のAppをゲットして、一気に図がアップグレードしました。GrafioというAppなのですが、$8.99で画面をなぞるだけであっという間にダイアグラムが描けます。私のようにグラフや表を描くのが苦手な人にはお薦めです。

それはそれとして、肝心の組織構成ですが、まず監督がいて、その監督が必要としているビジュアル・エフェクツの制作に関する責任を負っているのがVFXスーパーバイザーです。そしてVFXスーパーバイザーの下に、各デパートメントのスーパーバイザーがいます(各デパートメントには省略されているものもありますが、スペースの都合ですのでご容赦ください)。実写映画のビジュアル・エフェクツでは、合成されるCG映像そのものがVFXと呼ばれますが、CGの分業化された作業の中にもエフェクツがありますので、このエフェクツのトップはFXスーパーバイザーと呼ばれたりします。VFXスーパーバイザーと混乱しやすいので注意が必要です。それ以外はほぼそのままの肩書きといっていいでしょう。フィーチャー・アニメーションではVFXスーパーバイザーがいない代わりに、CGスーパーバイザーがいる場合があります。また、フィーチャー・アニメーションではアート・ディレクターがよりダイレクトにプロダクションに関わる場合があり、ライティングやルック・デブなどに直接ディレクションをする場合もあります。

頂いた質問に、スーパーバイザーとリード、あるいはリーダーは何が違うのか、というものがありました。図のライティング・スーパーバイザーの所をご覧ください。省略していますが、基本的には全く同じ階層が、各デパートメント・スーパーバイザーの下に続きます。まず、アメリカのプロダクションではリーダーという肩書きはほとんどありません。多分日本でよくあるチーム・リーダーという意味合いなのだと思いますが、これはリード・アーティストかリードTDと呼ばれ、例えばライティングであればキーストーン・ショット(基準となるショット)を作ってそのセットアップを他のアーティストに渡したり、彼らの作業の手助けをするという重要な役回りですが、あくまでも現場のアーティストかTDです。それに対してスーパーバイザーはアーティストやTDのまとめ役であり、ディレクターやVFXスーパーバイザーとの橋渡し役をつとめるものです。また、他のデパートメントとのやり取りを取り持ったり、VFXスーパーバイザーやアート・ディレクターから任せられた範疇で絵の方向性を決めたりもします。

また、一般のアーティストやTDにはシニアとジュニア、という表現がありますが、これは単純に経験の有る無しの度合いで分けているだけで、あまり深い意味はありません。

これらの点をご理解頂いた上で、肩書きや役職を決める際に注意した方がいいことを幾つか指摘させて頂きたいと思います。



  • 巷に存在する肩書きの全てを、組織内の人間に当てはめようとはしないでください。肩書きから逆算して組織を決めていくよりも、現状組織内で主要な役回りをしている人たちが、どういうことをやっているのか、そしてそれに一番近い呼び名は何か、ということから決めていくのが妥当です。よくわからない肩書きがあるんですがどうすればいいでしょう、といった質問を受けることがありますが、よくわからないのであれば、使わないのが一番です。私個人的には、肩書きは少なければ少ないほどいいと思います。1回目の連載でも書きましたが、ある肩書きを持つ人がどういう役割を演じ、どういう権限を持っているのかをプロダクション全員に周知させることが、肩書きそのものより重要です。
  • 同じような肩書きでディレクターとスーパーバイザーがいた場合、例えばアニメーション・ディレクターとアニメーション・スーパーバイザーがいた場合、こうしたケースは非常にまれですが、通常ディレクターはより演出にそった指揮を執り、スーパーバイザーはより実務と実制作におけるテクニカルな指揮を執る役回りと考えるのが自然です。私個人的にはこの2者に上下関係はないと思いますが、どうしても上下関係をつけなければならないというのであれば、現場での映画の方向性は第一義的には演出の意向によって決められるべきものですので、ディレクターがやや上と考えても差し支えはないでしょう。ただし、テクニカル・ディレクター(TD)という肩書きは、ディレクターという名前は入っていますが、基本的には会社組織でいうところの平社員です。基本的にはCGの役回りの何にでもつけることは可能で、モデリングTD、アニメーションTD、リギングTD、ライティングTDなど何でもありです。ただし、作業内容がよりテクニカルな問題を解決するための仕事の割合が高い、ライティングやリギングがTDの呼称で呼ばれる割合が多いのに対して、よりアーティスティックな作業の割合が高いと考えられる仕事は、モデラー、アニメーターなどと呼ばれることが多いです。
  • 一見別々の肩書きに見えても、実は同じようなポジションをさしている肩書きがあります。1回目でもご紹介しましたが、CGスーパーバイザーのことをライティング・スーパーバイザーと同義語に使っているプロダクションがありました。また、前回のマネージメントの回でご紹介したプロダクション・スーパーバイザーは、スタジオによってはプロダクション・マネージャーと呼ぶ場合もあります。どれがいいんですか、と聞かれることがありますが、これには恐らくロジカルな理由はなく、単にそれぞれのスタジオの習慣によってそう決められているのだと思います。
  • CGスーパーバイザーの例にありますように、肩書きの意味合いは、アメリカにおいても会社によって微妙に異なることがあります。大手のVFX、アニメーション・スタジオのウェブ・サイトにいくと、求人のページ(キャリア・コーナーやリクルーティングのページ)に求めている人材の種類と、その定義が書いてあることがあります。これを読むことで、だいたいそのスタジオのその肩書きの職種はどういう役回りを演じているのか、どういう資質を備えている必要があるのかがわかります。参考に目を通してみるとよいでしょう。

ここまででまだ不明点がある場合には、こうしたことに関してガイドラインをもうけたり、情報を収集したりしている組織に直接質問してみるのがいいでしょう。アメリカですと、VFX業界ではVES (Visual Effects Society) という業界団体があり、肩書きに関するガイドラインを作っています。

http://www.visualeffectssociety.com

Contactのページを開くと、電話やメールなどの連絡先情報があります。また、アニメーション業界であれば、The Animation Guildというユニオン(労働組合)があり、組合員の職種ごとの待遇調査などをやっていますので、ある程度詳しい情報を持っているかと思います。

http://animationguild.org

ここもやはりコンタクトのページがあり、電話番号などが載っています。ただし、私はそうした質問を目的にこれらの団体に連絡を取ったことはありませんので、協力してもらえるかどうかは存じ上げません。自己責任でお願いします。また、基本的にアメリカ人は我々アジア人が持つ、肩書きに対するこだわりを理解しておりません。日本のビジネス・シーンでは、ミーティングをするときに肩書きに応じて座る場所が決まっていたり、上司からふられるまで話をしなかったりすることがありますが、あれはアメリカ人にはよくわからないことの一つです。また、上司を「部長」とか「課長」とかいった肩書きで呼ぶ習慣もありません。ミーティングでその場にいる人々の役割を理解している必要はありますが、相手を呼ぶときはJohnとかTiffanyとか名前で呼びますし、必要とあらば誰もが好きなタイミングで話します。肩書きに関する質問をする際には、そうした自分たちの文化的違いを説明しておくとわかりやすいかもしれません。

もし会社が海外に支社をもうけたり、外国企業から仕事を受注しようとしているのであれば、外資系のコンサルティング会社に、世界的に通用するような会社のオペレーションや組織作りを依頼するというのもありでしょう。戦略系で有名なのはマッキンゼー&カンパニーですが、人事系ではマーサーという会社が有名なようです。


http://www.mckinsey.co.jp
http://www.mercer.co.jp

こうした会社がVFXスタジオまでカバーしているかどうかはわかりませんが、肩書きや組織構成に関してどうしてもすべてをクリアにしなければ気が済まない、というのであれば、ここまでやってみる価値もあるかと思います。何かいいことがわかったら、逆に私に教えてください。

以上、全5回にわたってワーク・フローとパイプラインのお話をさせて頂きました。次回はテーマも新たに、レンダラーについてお話しさせて頂きたいと思います。

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