ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年2月14日木曜日

レンダラを選んでみる その2

Rhythm & Hues Studiosの倒産のお話で1回間が空いてしまいましたが、またレンダラのお話に戻りたいと思います。前回はRenderManが使われなくなってきた理由に関してお話ししましたが、今回はRenderMan以外に使われているレンダラにはどういうものがあるのか、ということについてです。前回お話ししました通り、多くのプロダクションはレイ・トレースをベースにしたレンダラに乗り換えつつあります。その代表格がMental Ray、Arnold、V-Rayです。

Mental Ray

Mental Rayはレイ・トレーサーとしては歴史の長いレンダラであり、もともとはドイツのMental Imagesが開発したものでしたが、現在はNVIDIAの製品となっています。Mental Rayはグローバル・イルミネーションにフォトン・マッピングとファイナル・ギャザリングを利用しているレンダラの代表格ですが、これらの手法は長年特にアニメーション時に発生するノイズに悩まされてきました。Mental Rayではファイナル・ギャザー・キャッシュを生成する際、複数の視点からサンプリングを行う、前後のフレームのファイナル・ギャザーとサンプリングを補完する、といった工夫を凝らしてノイズを取り除いています。

初期の頃は当時のSoftimage|3Dに採用されていましたが、現在もAutodeskにライセンスされており、Autodeskの主要な3Dアプリケーションのとの親和性が高いというのが特徴で、そのため多くのプロダクションで利用されています。Mental Rayで作られた作品としては、Digital Domainが手がけた「Tron : Legacy」、Hydraulxが担当した「The Avengers」のVFXショット、やや古い話ですが私が関わった作品として、SQUARE-ENIXの「Final Fantasy VII : Advent Children」などがあります。

Arnold

Arnoldはもともと個人が開発していたレンダラですが、その潜在的パフォーマンスを見込まれて、一時Sony Pictures Imageworksで独占的な開発が行われて、急成長したレンダラです。現在はその開発者が起こした会社Sold Angleからコマーシャル・プロダクトとして発売されていますので、Sony Pictures Imageworks以外の会社でも利用されるようになりました。ただし、私の知る限りでは、今のところ顧客は法人に限られているようです。

Aronldはグローバル・イルミネーションを行うのに、ファイナル・ギャザリングのようなイラディアンスのキャッシングをほとんど行わず、全てを双方向レイ・トレーシングで行うレンダラの代表格です。サブサーフェース・スキャッタリングにポイント・クラウドを利用することが出来ますが、オプションでありこれもレイ・トレースで計算可能です。ご存知のように双方向レイ・トレーシングは非常にレンダリング時間のかかる手法ですが、前処理にかかる時間が短いこと、プログレッシブ・レンダリング(計算途中の絵を徐々に表示していくレンダリング)が比較的に容易にインプリメントできることから、最終的なレンダリングには時間がかかるとしても、プロダクション・ワークでも十分使える、という発想で開発されたようです。またArnold自体はレンダリングのオプティマイゼーションに非常に手がかけられていて、双方向レイ・トレーシングとしてはかなり高速な部類に入るのが特徴です。

Arnoldで作られた作品としては、Sony Pictures Imageworksの最近の作品は全てそうですが、私が関わったケースでは「Alice in Wonderland」、「アーサー・クリスマスの大冒険」などがあります。

V-Ray

現在レイ・トレーサーとして最も人気を集めているのは、Chaos GroupのV-Rayでしょう。特に中小のプロダクションでは、レイ・トレーサーでありながら比較的高速で、Mayaや3ds Maxなどとの親和性が高く気軽に利用できることから人気があります。以前はシェーダーのカスタマイズがほとんど出来ないことから大手のプロダクションでは敬遠されるきらいがありましたが、現在はSDKを使ってカスタム・シェーダーを書くことも可能なようです。V-Rayで作られた作品としては、Digital Domainの「Real Steel」などがあります。



それ以外のレンダラ

ご存知の方も多いかと思いますが、アメリカのVFXプロダクションではエフェクツの作業にSide Effects社のHoudiniが重用されています。HoudiniにはMantraというレンダラが搭載されていますが、このレンダラはマイクロポリゴンとレイ・トレース、そしてフィジカル・ベースド・レイ・トレースの複数のモードが搭載されており、目的に応じてそれらを切り替えて使うことが出来ます。また、ボリューメトリック・レンダリングが得意なことも特徴の一つです。多くのプロダクションではエフェクツのレンダリングにこのMantraを利用していますが、Rhythm & Hues Studiosではそれ以外のハード・サーフェースのオブジェクトなどもMantraでレンダリングしています。現在日本で公開されている「ライフ・オブ・パイ」の海はそのほとんどがMantraでレンダリングされています。

他によく知られているレンダラとしては3Delight、Maxwellなどがありますが、アメリカのプロダクションではあまり使われていないようです。またIRayやOctane RenderのようなGPUレンダラも、使われているという話は聞きません。注目はされているものの、まだプロダクション映像を制作するほどの実用性には至っていない、ということなのではないかと思います。

また、前回お話ししましたように、市販のレンダラを使わずに自社で開発している、という会社も少数ですが存在します。DreamWorks AnimationはCGによるフィーチャー・アニメーションの制作を始めた際に傘下に収めたPDIがもともと開発していたレンダラを今でも使っていますが、これはRenderManと同じようにジオメトリをマイクロポリゴンにテッセレートするアルゴリズムを採用しており、グローバル・イルミネーションやサブ・サーフェース・スキャッタリングにはやはり同様にポイント・クラウドを採用しています。ウソか本当かはわからないのですが、私がDreamWorksで働いておりましたおりに聞いた噂話では、マイクロポリゴンのアルゴリズムはもともとPDIが開発したものなのだが、PixarがREYESを開発する際にPDIからエンジニアを引き抜いて(PDIはCaliforniaのRedwood Cityという、PixarのあるEmeryvilleからそう遠くない場所にあります)そのアルゴリズムを採用したのだそうです。なので、今でもPDI/DreamWorksのエンジニアが「あれはもともとうちのものだった」とこぼしていた、という話を聞いたことがあります。もっとも、本当かどうかは私もわかりません。

次回は、RenderManも含めたこれらのレンダラの中から、どれを採用すべきか、ということについて考察したいと思います。




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