ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年2月21日木曜日

レンダラを選んでみる その3

前回は市場に出回っているRenderMan以外のレンダラについてお話させて頂きました。ではRenderManも含めて、一体この中からどれを選べばいいのかという話なのですが、やはり重要なのはレンダリング・コストです。この点においてArnoldのような純粋なモンテカルロ・レイ・トレーサーに近いレンダラは、どうしても計算コストがかさんでしまいますので、ハードウェア・リソースが十分にない中小のプロダクションでは厳しいといわざるを得ないでしょう。私が「くもり時々ミートボール」(2009)の制作でSony Pictures ImageworksでArnoldを利用していた際には、既にライティングTDには8コアのCPUを搭載したワークステーションが必須の環境でした。SonyはArnoldを導入するにあたってレンダリング・サーバーを大幅に強化し、1フレームが十数時間を越えるようなレンダリングでフィーチャー・アニメーションを作っても作業に支障がないようにシステムを構築しておりましたが、私が作業をしていたものの中には30時間を超えるようなものもありました。

モンテカルロ・レイ・トレーシングのような手法の最大の問題はレンダリングされたイメージに粒子状のノイズが発生することで、これを取り除くには基本的にサンプリングを増やしていく他ありません。また、RenderManのREYESアルゴリズムのようにジオメトリをマイクロポリゴンに分割することはないので、パラメトリック曲面はイタレーション(iteration)と呼ばれる分割プロセスを経てレンダリングされますが、この数が十分でないとジオメトリが角張ってレンダリングされてしまいます。この数を増やすことは当然レンダリング時間の増加につながりますので、レンダリング・コストとイメージ・クオリティのトレード・オフが必要です。

私はV-Rayを実際の仕事で使ったことはないのですが、かなり計算の速いレンダラであると聞いていますので、Arnoldの前に検討してみるのがいいかもしれません。Arnoldと異なり、法人個人問わず販売されていて、トライアル版もダウンロードできますので、検討しやすいかと思います。またMental Rayは、V-Rayに比べるとやや後塵を拝した感がありますが、Autodeskの3Dアプリケーションのユーザーにとっては追加投資なくその機能を試せる訳ですから、依然検討に値するオプションの一つです。歴史が長いためノウハウの蓄積も多く、LAmrUGなどのサイトでリソースが公開されています。

このシリーズのトピックの最初の回で、アメリカのプロダクションでRenderManが使われなくなりつつあるお話をしましたが、RenderManそのものは今でもよいレンダラです。実は私は、パイプラインの問題さえなければRenderManは日本のプロダクションに向いているのではないかと考えています。ポイント・クラウドを使ったグローバル・イルミネーションはアーティストにそれなりの作業を要求しますが、レンダリング・コストがレイ・トレーシングほど高くなく、レンダリング・イメージのサンプリング・ノイズも穏やかです。最新版のRenderManではレイ・トレースもサポートされていますが、レイ・トレースを実行する際にはREYESアルゴリズムは起動されず、レイ・トレースのみでレンダリングが行われます。つまり、画面に現れるもの全てをレイ・トレースでレンダリングした場合、RenderManは一切REYESを使わずに絵を計算することになります。これはアルゴリズムの複雑さを取り除いてレイ・トレースを少しでも早くするためにこうした実装になったのだと思われますが、そうした使い方をしたければそれも出来るということです。

RenderManを導入する際の一番の問題はパイプラインで、まずPixarによって公式にサポートされている3Dアプリケーションは今のところMayaだけです。他にアプリケーション側でサポートしているものにSide EffectsのHoudiniやFoundryのKatanaなどがありますが、それ以外となりますとサード・パーティーのコンバータや、場合によっては自分たちでインターフェースを構築しないといけないでしょう。RIBファイルやポイント・クラウド、デプスマップなどの中間ファイルの処置もパイプラインを構築する際に頭の痛い問題で、開発やシステム専門の人材が十分にいないようなプロダクションでは導入に二の足を踏むのも無理なからぬことだと思います。ですから、レンダラを導入するに際して一番重要なことは、レンダリング・コストもさることながら、お手持ちの環境で無理なく作業をこなせるようなパイプラインを構築できる、ということになるでしょう。

また、レンダラはしばしば現場のアーティストやTDにとって、極めて感情的な問題となりやすいものです。特に長年同じソフトウェアに慣れ親しんできたライティングTDやシェーダー・ライターにとっては、レンダラはもはやいいとか悪いとかの問題ではなく、ほとんど宗教といってもいいものなのです。こうした人々を説得してレンダラを入れ替えるというのはかなり煩わしくデリケートな作業であるため、少々不満がある程度なら、今あるレンダラを無理に入れ替える必要はないでしょう。しかし作業効率の問題や、目指している絵作りのためにプロダクション全体に取って重要であるならば、上手く根回しをして合意を取り付けるか、それでもダメなら多少の人材の離反がおこっても仕方がないと割り切って進めるべきでしょう。

これにてレンダリングに関するお話はとりあえず終わりとさせて頂きたいと思います。さて、今週末はアカデミー賞授賞式です。何か良いニュースがお伝えできれば、と思います。


 
私のSquare USA時代の同僚が翻訳したRenderManの解説本です。原書が2000年とかなり古いですが、RenderManの基本を理解するには今でもよい参考文献です。

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