ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年2月25日月曜日

ライフ・オブ・パイがアカデミーの視覚効果賞を受賞

木村でございます。既にご存知の方もおられるかと思いますが、私が制作に関わりました「ライフ・オブ・パイ」が、昨日24日に開催されました第85回アカデミー賞授賞式において視覚効果賞を受賞しました。「ライフ・オブ・パイ」はこの他にも監督賞、撮影賞、作曲賞に輝き、今回のアカデミーに出品された作品の中で最多の4冠に輝いたことになります。

Rhythm & Huesに届いたOscar像(右)とBAFTA (British Academy of Film and Television Arts)の視覚効果賞のトロフィー。Socar像は結構重いです。

私はこの様子を自宅のテレビで見ていたのですが、「ライフ・オブ・パイ」の名前が読み上げられた瞬間、思わず何年かぶりにガッツポーズを取ってしまいました。受賞のスピーチをするために上がったRhythm & HuesのVFX Supervisor、Bill Westenhoferを見ながら、思わずこんな思いが走馬灯のように頭をよぎったものです。

「ガッツポーズってガッツ石松が語源なんだよな。英語じゃないからアメリカ人に『ガッツポーズ取っちゃったよ』とか言わないようにしないと」

ところでこの「
ライフ・オブ・パイ」の視覚効果賞受賞、その理由は十中八九ベンガル・タイガーのリチャード・パーカーにあることは、ほぼ誰もが認めることでしょう。私は海のエフェクトとライティングの担当でしたので、リチャード・パーカーにはほとんどタッチしておりません。したがいまして、このアカデミーは私的にはかなり棚ぼたなのですが、知り合いや親戚に話すときには、この部分は上手くぼかして自慢したいと思います。さて、せっかくの受賞ですので、それを記念して「ライフ・オブ・パイ」に関するトリビアを幾つかご紹介しましょう。

パイが救命ボートで漂流するシーンのほとんどは、台湾にあるもともとは飛行場だった跡地に作られた巨大なプールで行われました。このプールには波を発生させる機械もついており、合成のために周囲の壁は全て青く塗られました。




リチャード・パーカーは劇中の86%ほどがCGで作られていました。本物の虎に演技をさせるのは極めて難しいため、1)人物や他の動物と一緒に写らない、2)特定の動きや演技を要求されない、といった条件に当てはまる場合のみ実写が使われたようです。そのため、ほとんどのショットはただボートの上で寝そべったり、あてどもなくふらついたりしているものでしたが、私の知る限り、唯一アクション・ショットでも実写が使われたものがあります。それは、魚を捕ろうと、リチャード・パーカーが海に飛び込むショットで、このシーンは実際に虎をプールに連れてきて、ボートの上から飛び込ませたところを撮影しました。このシーンの海と空、それに海の中を泳いでいる魚はCGですが、飛び込む虎と、水しぶきの一部は実写で出来ています。

Rhythm & Huesが担当した海のシーンにはほとんど全てHoudiniと、そのレンダラであるMantraが使われました。水の表現によっては、部分的にNaiadも使われました。動物はごく一部を除き、全てRhythm & Huesのインハウス・レンダラによってレンダリングされました。

海を漂流していたオランウータンが乗っていたバナナはCGですが、当初は実写の予定でした。本物のバナナは水に沈んでしまうため、発泡スチロールのような素材でプロップのバナナを作り、実際に撮影しました。最終的に、CGの方がそれらしいということでCGになったようです。

VFXの絡まない実写のパートの撮影素材がどうなっているか、VFXアーティストのためにAng Leeが自ら素材をRhythm & Huesまで持ち込んで、試写してくれたことがあります。試写室には全員が入りきらなかったため、3回に分けて行いましたが、3回ともAng Leeが前に出てきて、スタッフに丁重に感謝の言葉を述べてくれました。

劇中に出てくる作家の役は、Rafe Spallという役者さんがやっていますが、当初はスパイダーマンのTobey Maguireが演じる予定で、実際に撮影もしていました。しかし彼はあまりにも有名すぎるため、なるべく観客になじみのない配役でやりたいというAng Leeの意向で変えられたようです。配役はかなり早い段階で変更されたようですが、主要メディアにこのニュースが伝わったのが公開直前だったため、知らない人たちから「なんで今更」といった反応があったようです。

視覚効果賞の授賞式では、先ほどもお話しした通り、Rhythm & HuesのVFX Supervisor、Bill Westenhoferが登壇してスピーチを行いましたが、彼のスピーチの最中、なぜか「ジョーズ」のテーマソングが流れ出して、スピーチの終わりの方がほとんど聞き取れなくなりました。彼のスピーチは、実際には以下のようなものでした。

"The irony is not lost on any of us up here that in a film whose central premise is to ask the audience what they believe is real or not real, most of what you see is, well, it’s fake. That’s the magic of visual effects.  I want to thank Gil Netter and Elizabeth Gabler and all those at Fox and Fox 2000 for realizing that sometimes it takes a risk to make something special. And LIFE OF PI was a risk worth taking. To our director, Ang Lee, you were an inspiration and you made it an incredible journey for all of us. To David Womark, Mike Malone and Tommy Fisher for making a wave tank that kept us from having to go out to the real ocean and John Kilkenny for inviting all of us to the party in the first place. to my family for all the sacrifices they made, Gabrielle I love you so  much, to my children: Christopher, Thomas, Alexander and Samantha thank you for inspiring me every day, my mom and dad thank you for telling me to do any crazy career choice I wanted. Finally, I want to thank all the artists who worked on this film for over a year, including Rhythm & Hues. Sadly Rhythm & Hues is suffering severe financial difficulties right now. I urge you all to remember…."

このスピーチの最後を見て頂くとわかりますが、彼はRhythm & Huesの厳しい現状にふれ、比較的ダイレクトな表現、”servere financial difficulties”という言葉を使っています。すでにネット上のVFXコミュニティでは、Billのスピーチが音楽によって意図的に妨害されたのではないか、と見る向きが出ています。もしこれが本当に意図されたものだとすると(実際のところ、極めて不自然でかつ無礼なやり方でしたが)、映画会社は我々が思っていた以上にRhythm & Huesの倒産に関してナーバスになっている、と言えるでしょう。実はこのアカデミー賞の授賞式のあった同じ日、LAのVFX業界はもう1つ別の動きを見せていました。それは、授賞式の会場、Dolby Theaterの近くで、有志が集まってデモを行う、というもので、業界紙などでもあらかじめその開催がレポートされていたものです。そこで、次回はこのVFX業界のアカデミー賞に合わせたデモに関するお話をしたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。