ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年2月5日火曜日

レンダラを選んでみる その1

木村でございます。2月になりましたね。引き続き本業やらテレビやらゲームやらでがかなり忙しくなっておりまして、少々間が空いてしまいました。出来れば週に1回くらいのペースでやっていきたいところですが、場合のよってはまた間が空くこともあるかと思います。気長におつきあいください。

1月中はパイプラインとワーク・フローについてお話させて頂きましたが、今月からは新たにレンダラについてお話をさせて頂きたいと思います。私がライティングTDをやっているために特にそうだと思いますが、「どんなレンダラを使ってるんですか?」といったご質問をよくお受けします。なかには「RenderManって使ってます?どう使ってます?」といったご質問もあります。これはRenderManが業界のデファクト・スタンダードであることからご興味を持ってのご質問かと思います(これからこのトピックでは、特にお断りしない限り、RenderManはRenderMan Interfaceに準拠した不特定多数のレンダラのことではなく、Pixar社のPhotorealistic RenderMan, PRManのことをさしているものと考えてください)。結論から申し上げますと、アメリカの映像業界ではRenderManは使われなくなりつつある、というのがお答えになります。


まず数年前にSony Pictures Imageworksが完全に利用をやめてしまいまして、Digital DomainもほとんどMental RayやV-Ray、Arnoldなどに乗り換えてしまったと聞いております。ILMは初期の頃からRenderManを使っている大口ユーザーであり、Pixarとの間で永久ライセンス契約を結んでいますので、今でも使っていると思いますが、最近Arnoldを導入し始めたと聞いております。開発元のPixarと系列会社のWalt Disney Animation Studiosはもちろんまだ利用していますが、それ以外にはほとんど聞かなくなってしまいました。もちろんアメリカ国内にはこれらの大手スタジオ以外にも中小の優れたスタジオやゲーム会社があり、それらの会社で使っている可能性はありますし、またアメリカ国外に目を向ければ、Double NegativeやWeta Digitalが大口ユーザーとして知られています。しかし、基本的にはアメリカの大手VFX業界はRenderMan以外のレンダラに移行しつつある、というのが全体の流れになっています。今回はその理由と、それでは代わりに何を使っているのか、というお話です。

RenderManが使われなくなった理由

まず考えられる1つ目の理由としましては、やはりコストがあるかと思います。最近はだいぶ値段も下がってきましたが、もともとRenderManはレンダラ単体のソフトウェアとしては比較的高額なソフトウェアでした。プロダクションで必要になる最終レンダリング用のレンダラのライセンスは、インタラクティブ版が少なくともルック・デブ、ライティング、エフェクツTDの数だけ必要になりますし、更にレンダリング・サーバーのノード数分が必要になります。プロダクションの規模がアーティストだけで数百人、千数百人にもなり、サーバーも数千ノードになるような大手のプロダクションでは、初期購入費用はもちろんのこと、毎年の保守料だけでかなりの出費になります。それならコンピュータ・サイエンティストやプログラマを雇って自社開発のレンダラを書かせた方が、彼らの人件費を勘定に入れてもまだ安上がりと考える会社も出てくるでしょう。アメリカの大手プロダクションでは、DreamWorks AnimationやRhythm & Hues Studiosが自社開発のレンダラを抱えています。また、Sony Pictures ImageworksはArnoldの開発元であるSolid Angleとの間でソース・コードを保有する契約を結んでおり、独自に開発をして利用しています。

また、ハードウェアの性能があがり、かつ価格も下がってきたことから、かつてはあまり現実的とはいえなかったレイ・トレース・エンジンを採用したレンダラーが長編映画のプロジェクトでも使えるようになってきた、というのも大きな要因です。RenderManは非常に歴史の長いレンダラで、まだハードウェア・リソースが貴重だった時代にその基本設計がなされたレンダラです。RenderManにあまりなじみのない方のために簡単に説明させて頂きますと、RenderManの基本的なアルゴリズムは、その前身であるレンダラから名前を取って、REYESと呼ばれていますが、これは画面をバケットと呼ばれる小さな領域に区切って、その各領域毎に透視変換したジオメトリをマイクロポリゴンと呼ばれる極小の四角形にテッセレートし(このテッセレーションのプロセスのことはダイシング、もしくはラスタライゼーションと呼ばれ、商業映像のクオリティでは通常、ピクセルのサイズかそれ以下まで分割します)、各マイクロポリゴン毎にシェーディングを繰り返していきます。この際、ユーザーによって定義されたシェーダーと呼ばれるプロシージャーを呼び出してシェーディングできるのも、恐らく市販のレンダラとしてはRenderManが最初に採用したアイディアではないかと思います。データを保持するためのメモリは別として、シェーディングに必要なハードウェア・リソースは、ほとんどこのバケットと呼ばれる領域に限定されるため、上手くチューニングすれば、データ量の増加に対するハードウェアへの負荷が比較的緩やかに抑えられる、というのがRenderManの特徴です。




このチューニングには経験と知識が必要で、一歩間違えると大量のデータがスワップに落ちてしまう、という難しさがありました。しかし現在のようにハードウェアの性能があがり、かつ価格が下がってくると、細かいチューニングに時間と手間をかけるより、大量のハードウェアを購入して力技で解決した方が早いのではないか、という考え方も出てきます。経験と知識のあるライティングTDを高い人件費を払って長時間拘束してレンダリングのチューニングをさせるより、レイ・トレースのスイッチを必要なだけ入れて、後はさっさとサーバーに投げてしまう方が簡単だという訳です。

また、映像に対する要求が高まってくると、グローバル・イルミネーションやサブ・サーフェース・スキャッタリングのようなレイ・トレーサーが得意とする表現を多用しなければならなくなったプロダクションにとって、RenderManはやや役不足になってきた、という部分もありました。最新のバージョンのRenderManはこうした表現はポイント・クラウドを利用して高速かつ高品位に表現できますし、レイ・トレースもサポートしていますが、ちょうどこのような映像表現が業界のトレンドになりつつあった時期に、若干出遅れしまったことがありました。RenderManのユーザーだったプロダクションも、ちょうどその辺りからレンダリングのための他のオプションを模索し始めたように思います。

また、業界の詳しい方からお聞きしたところでは、PixarはもともとRenderManを売ることにそれほど熱心ではない、という話もあります。もともとはハードウェアを含めたCGのシステムの開発、販売を手がけていたPixarですが、現在は売り上げのほとんどがアニメーション映画のようなコンテンツであり、RenderManはそれらコンテンツを作るのに重要なツールではあるものの、わざわざ社外の顧客のサポートに多くの人材をさくほどの余裕はない、という部分が少なからずあるのだそうです。そういう空気を読み取ったプロダクションが、RenderManに依存し続ける危険性を回避したいと考えても、不思議はないところでしょう。

では、RenderManの利用をやめてしまったプロダクションは、代わりに何を使っているのでしょうか。次回はRenderMan以外にプロダクションで使われているレンダラについて、お話ししたいと思います。



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