ハリウッドVFX業界就職の手引き

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2013年3月14日木曜日

映像産業の補助金制度について考えてみる その1

木村でございます。ブログを始めて3ヶ月が経ちましたが、さすがに筆が鈍ってきました(と前にも同じようなことを言いましたが)。私、小中学生のときも夏休みの日記は、最後の3日くらいにまとめて書くタイプでしたので、そういう意味では3ヶ月続いただけでも上出来なのですが、せっかく一念発起して書き始めた訳ですから、せめて1年は続けたい、というのが目標です。というか、希望です。というか、そうなったらいいだろうなあ、という気持ちです。

それはさておきまして、前回予告しました通り、今回から映像産業における補助金制度のお話をさせて頂きたいと思います。まず、ここにイギリスの金融情報サイトThis is Moneyに昨年掲載された興味深い記事がありますので、それをご覧ください。

Captain Americaはイギリス映画


Captain America given £18.8m in tax credits after being classed as British film

この記事の内容なんですが、要約しますと、Walt Disney Companyはその子会社であるMarvel Entertainmentが2011年に制作した映画、Captain America: The First Avengerを、会計報告書の中でイギリス映画にカテゴリした、というものです。これによりDisneyはイギリスの映画産業に対する税制補助の中から1880万ポンド(日本円にして現時点でだいたい27億円、米ドルで2800万ドル)を受け取ったとのことです。記事によりますとCaptain Americaの制作費は1億3050万ポンド(日本円にして187億円、米ドルで1億9500万ドル)とありますから、全体の%14ほどがこの補助金でまかなわれたことになります。もちろん、映画をただ単にイギリス映画にカテゴリしたから補助金が出た、という訳ではなく、この税制補助を受けるために、Marvelはプロダクションの作業のかなりの部分(特にポストプロダクション)をイギリスで行っています。これが今、映像産業で行われている補助金制度の一つの例です。

最初に申し上げておきますが、私は金融や経済に関する専門家ではありませんので、ここでお話しすることに関して学術的な厳密さが欠けていることはあらかじめ申し上げておかなければなりませんが、もし皆さんが業界の置かれている現状について大雑把に理解しておきたいということであれば、私の話である程度は事足りるはずですので、そのつもりでお読みください。まず、映像業界における補助金制度、ちなみに補助金は英語ではsubsidyとかsubsidizationなどといいますが、これをものすごく乱暴に分けると、最終的には次にあげる2つのいずれかのケースに収まると考えていいかと思います。



<税制優遇制度>


これは英語ではTax grants、Tax breaks、あるいはTax creditsなどとも言いますが、該当する国、あるいは地域に映像制作のための会社を立ち上げた場合、その法人税や所得税を始めとする税金を一部免除するか、あるいは後で払い戻す、というものです。これはイギリスやカナダ、シンガポールなどで広く用いられている手法で、アメリカでも一時ニューメキシコのアルバカーキーが同様の制度でSony Pictures Imageworksなどを誘致して話題になりました(その後数年でSonyは撤退しました)。実はアメリカは、法人税率が世界でも日本についで2番目に高い国で、その実効税率はカリフォルニアですとほぼ40%近くと、日本と同じレベルに達します。これがシンガポールで17%、イギリスでは28%、カナダでも33%くらいで、ここから更に減免されるわけですから、更にアメリカとの差がつきます。


<助成金制度>


これは英語ですとIncentivesとかGuaranteesとかになりますが、これは該当する国、あるいは地域で映画の制作を行った場合、そのプロダクションの規模や制作費に応じて一定額を援助する、というものです。つまり現生をただでくれる、という訳ですからかなりインパクトのある手法です。この手法で有名なのがニュージーランドで、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の制作の際には、3〜4億ドル近い助成金が投じられたといわれました。


助成金も基本は税金から投じられるものですので、この2つはほとんど同じようなものですが、会社に対してのものか、あるいはプロジェクトに対してのものか、といった程度の違いがあります。ご存知だとは思いますが、補助金制度自体は他のさまざまな産業でも見られる制度であり、VFX産業にのみあるという訳ではありません。たとえば、製造業の工場を誘致するために工場用地を提供したり、新しく会社を始めたい起業家のために設備投資のための費用を低金利で融資したり、といったことはよく聞く話です。しかしそうしたケースとVFX産業では、少々事情が異なります。それは、VFX産業ではこれらの補助金が通常の営業行為を維持するために使われているからです。

工場用地を提供してもらったりするケースは、いわばスタートアップのために必要な費用をまかなってもらうものであり、一旦工場が建って操業を始めれば、このビジネスが上手くいくかどうかは経営側の問題になります。しかしVFXスタジオの場合は、受注する仕事そのものに助成金がついてきたり、日々スタジオを操業する費用を税制補助でまかなっていたりします。こうなってくると、最初に補助金ありきでビジネス・プランを立てるようになりますから、補助金が途切れたとたんにビジネスが破綻することになります。

更に問題なのは、これらのスタジオがこの補助金をもとにVFXの価格競争をしていることです。VFXの仕事は通常、映画会社からのオファーに対して複数のVFXスタジオが応札し、最も安い価格を提示した者が落札する形を取る「競売」形式がが多いのですが、映画会社はこうしたVFXスタジオが補助金を受け取っていることを知っていますので、それを織り込んだ価格を要求してきます。つまり、入札の時点で補助金を受け取っていないスタジオは、応札自体に参加できないことになります。中には映画会社が入札の際、応募してきたLAのVFXスタジオに対して、バンクーバーなどの補助金制度がある都市にスタジオを建てなければ応札させない、と圧力をかけてきた、などという話もあるくらいです。

しかし、ロンドンやバンクーバーのような世界中の街がこの補助金制度を映像産業に提供している以上、少なくともそれらの街に取ってはメリットがあるはずであり、そうであるならばVFXスタジオがそれを積極的に利用するのは悪いことではないのではないか、とも思えます。そこで、次回はこれらの補助金制度を提供している各都市の現状をお話ししたいと思います。

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