ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年3月20日水曜日

映像産業の補助金制度について考えてみる その2

木村でございます。前回から補助金のお話をしていますが、実は今回はこのお話はお休みして、3月14日に行われたVFX業界のタウン・ホール・ミーティングのお話をしようかと思っていたのですが、今やっているプロジェクトが追い込みに入ってきておりまして、それどころではなくなってしまいました。なんだか日曜日にも出社しなければならない有様です。補助金のお話は、あらかじめ大雑把な原稿を書き上げていましたので、とりあえずはこれに沿って補助金のお話を続け、タウン・ホール・ミーティングについてはまた機会を見つけてお話ししたいと思います。

補助金制度にメリットはあるか

前回は映像産業に対する補助金制度の概要をお話ししました。こうしてみますと、これだけたくさんの都市が補助金制度を導入している以上、当然雇用を生み出すなどのメリットがあるからやっているのであり、少なくともこうした都市にとっては問題はないはず、と思えます。そこで、これらのVFX産業に湧く都市の現状を見ていきたいと思います。

まず、「VFXゴースト・タウン」などと揶揄されるようになったLAですが、実は補助金制度がない訳ではありません。ただ、ロンドンやバンクーバーなどの都市などとは比べるべくもなく、実質効果を示せていないというのが現実です。このため、仕事がこうした補助金の厚い街に流出していくという現象がここ何年と続いています。しかし、そうした補助金の厚い街でも、LAのVFXスタジオが築き上げてきたレベルといきなり同じ仕事ができる訳ではないので、それに対してはLAの人材を引き抜いたり、バンクーバーに支社を立ち上げたLAのスタジオがLAの人材を転勤させたりして対処していました。実際のところ、私のLAの友人の中にも、引き抜きにあってシンガポールなどに渡ったものがいます。また、引き抜かれないまでも、結局のところLAでのVFXの仕事が減っている以上、海外の補助金のある街に仕事をしにいかざるを得ず、LAを後にする人もいます。つまり、仕事と一緒に人材の流出が起きている訳です。

一方補助金制度の厚い都市にとっては、当然雇用を生み出すなどの経済効果がある一方で、補助金が自治体の財政を圧迫するという問題があります。バンクーバーがあるカナダのブリティッシュ・コロンビア州は、映像産業への補助金が2012年の1年間で4億3700万ドルに上ったそうです。このため、州政府は補助金制度の見直しを進めているという話を聞きます。この補助金をまかなっている州の予算の出所は当然国民の税金であり、それらは所得や、物品を購入したり、サービスを利用するたびに徴収されるものです。自治体の支出が多い、もしくは法人からの税収が少ない都市は、当然市民に対する税金や生活費が高くなる傾向にあります。そもそも国民の税金、という言い方には若干語弊があります。なぜなら、税金はその国の国民だけでなく、そこに合法的に住んで働いている外国人も払うものだからです。ここに補助金制度のある都市で、VFX産業に従事して働くところの奇妙な点があります。

補助金制度のある街にもともと住んでいて、家族がいたり、奥さん、もしくは旦那さんが同じ街で仕事を持っていたり、子供が既に地域の学校に通っていてなじんでいたりといった、地元に住み続けることに意味のあるアーティストやTDにとっては、補助金制度を使ってVFXスタジオを誘致してもらうことは、たとえ生活費や税金が高かったとしても納得がいくことでしょう。あるいはこうした街が好きで、一度住んでみたかった、という人々にも良い制度と言えるかもしれません。しかしそうでない人たちに取っては、仕事があるから、というだけでその街に移住し、高い税金や生活費を払ってVFXスタジオで働き続けるのは、映画会社にお金を貢ぎ、彼らのいう通りの場所に移り住む代わりに仕事をもらっている、ということに他なりません。

補助金制度を施行している街は、しばらくするとだいたいその制度が割に合わなくなって、やめてたり規模を縮小してしまいます。かつてのオーストラリアがそうでしたし、カナダは昔からやってはやめ、やってはやめを繰り返しています。しかも、ちょっと前まではVFX産業の獲得競争は、LAの様な補助金制度の極めて乏しい街と豊かな街との戦いでしたから、勝負は簡単につきました。しかし、今では補助金制度に積極的な街同士が戦うようになったため、更に補助金の額をつり上げなくてはならなくなりました。バンクーバーの補助金の額が異様に高いのは、明らかにロンドンに対抗したせいでしょう。Double Negativeがシンガポールに進出したのも、ロンドンがやや後塵を拝してきたのが要因の1つにあったのではないかと思います。しかし、ここにきて今度は同じカナダのオンタリオ州とケベック州が、ブリティッシュ・コロンビア州を更に上回る補助金制度を打ち出してきました。オンタリオ州にはトロント、ケベック州にはモントリオールという、やはり映像産業の盛んな都市があり、映画の撮影もよく行われています。この結果、ロンドンのFramestoreがロンドンのスタッフを一部レイオフし、代わりにモントリオールにスタジオを開く、というニュースが流れました。また、ドイツに本拠地のあるPixomondoは最近ロンドンにあるオフィスをクローズしましたが、ここもトロントにスタジオがあります。

こうしたことから、この補助金制度を巡る事態そのものをばかばかしいと捉える向きも増えてきました。そして、それに対する解決策を模索する人々も出てきつつあります。次回は、そうした動きに関してお話しさせて頂きたいと思います。

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