ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年3月26日火曜日

映像産業の補助金制度について考えてみる その3

補助金制度に解決策はあるのか

前回は補助金制度の問題点をお話ししました。こうした問題点を考えるにつけ、これは何か策を講じた方がいいのではないか、と考える人たちも出てきます。まずこの制度の弊害をまともに被ったカリフォルニアのVFX業界ですが、これに対する解決へのアプローチは割れています。

まず、補助金制度を諸悪の根源と見ている人たちは、各国にこの制度自体をなくさせるよう、アメリカ政府が働きかけるべきだ、と訴えています。この動きの急先鋒がアメリカのVFX業界では有名なブロガーのVFX Soldierで、彼(なのか彼女なのかわかりませんが)は映像産業におけるこれらの補助金制度は、各国が結んだ自由貿易協定に違反しており、アメリカ政府は世界貿易機関(WTO)に対してこれらの国を提訴すべきだ、と考えています。彼(女)はそのための弁護士を雇う目的で、インターネットを通じて初期調査費用のカンパを行い、始めの1、2週間だけで目標額の1万6千ドルを集めました。しかし、合衆国政府に対して他の国を協定違反で訴えさせるためには、かなりのロビー活動が必要なはずであり、その後の資金を集めるのは困難を極めるでしょう。このため、同様にこの問題を政府に訴えようとしている活動家が、ホワイトハウスに対して請願書を出す動きを見せました。この請願書に対してホワイトハウスに何らかの返答をさせるためには、10万通のオンライン署名が必要ですが、このブログを書いている時点でもはや締め切りは目前だというのに、その10分の1にも達していません。VFX業界の規模から考えると、こうした試みも上手くはいかないということでしょう。

これに対して、VFXの業界団体であるVESは、先頃カリフォルニアのJerry Brown州知事に対して、 VFX産業を含むポストプロダクションへの包括的な税制補助を拡大させるよう求める書簡を送ったことを表明しました。VESにしてみれば、合衆国政府に対して、他の国を訴えさせようとする動きはやや現実性を欠くものであり、根本的な解決策にはならないとわかってはいても、他の街が音を上げるまではこの補助金戦争に参入せざるを得ないと考えたのでしょう。

そもそも映像産業に対する補助金制度はもはや収拾のつかないほどの広まりを見せており、それはアメリカ以外の国に限ったことではありません。これは最近VFX業界で話題になったルイジアナ州議会の模様を映したYouTubeビデオにあった話ですが、ルイジアナ州が映像産業に対する税制補助を行ったせいで州の財政が逼迫しており、これを問題にしている、というものでした。


私はこの映像を見るまで、そもそもルイジアナ州で映像産業に対して補助金が出ていること自体知りませんでした。この他にもアメリカでは、ニューヨーク、テキサス、フロリダ、果てはデトロイトのあるミシガンまでがそういう制度を導入しているそうです。こうなってしまうと、VFX産業の仕事が将来どこに行くのかは、もはや誰もわからないというのが現実でしょう。

正直なところ、私自身はもしバンクーバーがLAに代わってVFX産業の中心都市となり(というか既にもうそうなりつつありますが)、これからはあらゆる VFXのプロダクションがこの街で行われるようになる、というのであれば、バンクーバーに移住するのはやぶさかではありません。私は2011年のSIGGRAPHでバンクーバーに行きましたが、毎年「世界の住みやすい都市」ベスト10の上位を占めるだけあって、風光明媚で落ち着いた、安全そうな街という印象を受けました。というか、私SIGGRAPHもそっちのけで結構エンジョイしました。しかし、残念ながらバンクーバーがいつまで続くのかは誰にもわからないのです。やっと腰を落ち着けて仕事を始めたとたん、今度はデトロイトが新たな勤務地にならないとも限らない訳です。ちなみにデトロイトは、「全米で最も凶悪犯罪が多い都市」の上位に毎回顔を出す都市というありがたくない栄冠に輝いています。

補助金制度のある街でVFXの仕事を受注しているプロダクションは多くの場合、本来であれば利益が出ないような価格で仕事を請け負うことで入札を勝ち抜いてきた訳ですから、補助金が止まれば他の補助金のある街にスタジオを移動せざるを得ません。しかしこれがもし3、4年おきに繰り返されるとなれば、それ自体がプロダクションの体力をそぐ要因となるでしょう。一方映画会社はその価格を維持したいでしょうから、最終的に補助金のスキームが効かなくなれば、根本的に人件費の安いところに仕事を持っていくようになるでしょう。つまりインドや中国、東南アジアなどの国々になる訳です。そうなると、今度は我々はそうした低賃金労働者と競争するために、労働条件を彼らのレベルに合わせなければならなくなるでしょう。

どちらに転ぶにせよ、この補助金戦争の果てに自分たちの仕事がどうなるのかは、常に考えておかなければならない問題です。そういう意味では、これはVFX産業の構造的な問題とも言えるでしょう。そのため、もっと根本的にこの産業のあり方を考えようとする動きも出てきました。次回はそうした動きに関してお話ししたいと思います。

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