ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年3月31日日曜日

Rhythm & Hues Studios、新会社として通常業務復帰へ

木村でございます。映像産業の補助金制度に関して、何回かに分けてお話ししておりますが、今回はそれをちょっと中断しまして、以前お伝えしたRhythm & Huesのその後に関してお話しさせて頂きたいと思います。

結論から申し上げますと、タイトルにもあります通り、Rhythm & Huesは新会社としてチャプター11から脱出し、通常の業務に戻ることになりました。倒産後、同社はFox Studios、Universal Studios、そしてLegendary Picturesから融資を受けながら、これらのスタジオから受注していたVFXの仕事、即ちFoxの"Percy Jackson: Sea of Monsters"(ちなみに私はこのプロジェクトの担当です)、Universalの"R.I.P.D."、そしてLegendaryの"The Seventh Son"の作業を継続する一方、手持ちの資産を整理して、最終的に会社を競売にかけて売却し、新しいオーナーの下で再出発することを目指していた訳ですが、ほぼ予定通りにこれらのプロセスを終わらせるめどが立った訳です。新しいオーナーはやはりLAに拠点を持つアニメーション会社、Prana Studiosのオーナーで、複数のインド人資産家グループですが、今回の買収のために34×118 Holdingsという名目上の出資会社を立ち上げて、競売に挑んだようです。またVESのチェアマンであるJeff OkunはPranaの副社長を務めていることから、今回の買収劇に関わったのではないかと言われていますが、詳細はまだわかりません。

この一連の再建プロセスですが、ここまでの道のりが順調だった訳ではありません。同社がチャプター11の届け出を出したのは今年の2月13日ですが、それから1ヶ月半程度の間に会社を競売にかけて売却し、チャプター11から脱出するというのは異例のスピードです。これはあまりにも倒産状態が長引いてしまうと、新規の仕事の受注に差し障りが出る上に、上記の映画会社の仕事がほとんど全て4月までに終わってしまうため、その前に新しいオーナーを見つけ出して当座の運転資金を得ないと、会社の存亡自体が危ぶまれたためと思われます。同社の旧経営者陣は、とにかく会社の存続を唯一の目標として、これらのプロセスを思い切ったスピードで進める必要がある、と判断したのでしょう。とはいえ、「異例のスピード」とは書きましたが、実は前例がない訳ではありません。昨年やはりチャプター11を届け出した後、インドと中国の会社に買収されて再出発を切ったDigital Domainもやはり同じようなプロセスをたどっています。私が個人的に受けた印象では、どうもRhythm & Huesの旧経営陣はこのDigital Domainのケースを幾つかの点で参考にしたようです。

また、この再建プロセスが始まった時、Rhythm & Huesを倒産させることに反発した債権者もいたようです。これがFoxやUniversal同様、同社に仕事を発注していたWarner Bros.であると言われています。Warnerは"Black Sky"と"300: Rise of an Empire"という2つのプロジェクトのVFXを同社に発注していましたが、作業がまだかなり残っていたため、プロジェクトの引き上げと制作費の返済を要求したようです。一方FoxとUniversalは旧経営陣の判断に同調し、チャプター11の後作業が継続できるように両者合わせて1700万ドルの緊急融資を決め(この後Legendaryが別口で更に追加融資をしました)、このおかげでRhythm & Huesは新オーナーが決まるまで会社を操業し続けることが出来たのです。

この倒産させるか否かを巡っての話し合いはどうも穏やかではなかったようで、旧経営陣のトップで、いつも温和な物腰のJohn Hughes氏曰く、「スタジオ(Warner)はとても怒っていた」そうです。どのぐらい怒っていたかと言いますと、チャプター11の申請後、Warnerや投資銀行のFocal Pointを含む債権者グループが裁判所に対して、Rhythm & Huesを会社清算(Liquidation)するよう提案したというのですから、怒っていたのは確かなようです。最もこの怒りには理由がない訳でもありません。報道によりますと、旧経営陣はFoxとUniversalからの緊急融資を得るにあたって、Rhythm & Huesが持っていた主要資産のうちの1つであるオフィスビルを債権者に相談なく担保にしたのだそうです。Warnerを始めとする多くの債権者からの債務がチャプター11前のものであるため、保証外の債務になるのに対して、FoxとUniversalの融資は新会社の返済義務の対象になる訳ですから、債権者グループにしてみれば、一杯食わされたと感じても致し方のないところでしょう。もっとも私など事情をよく知りませんから、WarnerもFoxやUniversalと一緒にRhythm & Huesの救済に乗ればよかったのに、と思わなくもありません。

結局裁判所からは競売による会社の売却の許可が下り、3月27日に実施されます。競売には5人の応札者がいたそうですが、Rhythm & Hues側が、単純にビッディングの価格が高いのではなく、新しい仕事を受注できる能力のある会社を条件に出したようで、なかなか決まらず、入札は翌日になっても続けられ、最終的に28日の夜に、Prana Studiosのオーナーが3000万ドルほどで落札して決着を見ました。

新しいオーナーが決まったばかりですので、今後のRhythm & Huesの舵取りの詳細はまだわかりませんが、チャプター11後に提出された再建計画には、仕事の80%程度を同社がインドやアジアに持つ支社でこなすことでコストを下げるよう提案されています。こうしたことからも、今後人件費の高いLAスタジオが大幅に縮小されるのは必須とみていいでしょう。しかし仮にそうだとしても、Rhythm & HuesのようなVFXスタジオが生き残れることが出来たのは、とてもよかったと思います。同社は昨年25周年記念を迎えましたが、この移り変わりの早い業界で25年間トップを走り続け、3つのアカデミー賞を受賞するという偉業を成し遂げてきたのは実に敬意に値するものであり、こうしたスタジオが存在し続けるということは、我々VFXアーティストにとっては大変意味のあることだと思います。

創業者の3人、John Hughes氏、Pauline Ts'o氏、Keith Goldfarb氏が、今後新生Rhythm & Huesにどのように関わっていくのか、あるいはもう関わらないのか、私にはわかりませんが、彼らが旧Rhythm & Huesで成し遂げてきたことは、VFX業界の歴史に残る偉業でしょう。経営トップの退任にあたって、Keith Goldfarb氏は、巷の連中がRhythm & Huesの何が間違っていたのか、といったことを盛んに言っているが、あれが自分は全く気に入らない、それよりもRhythm & Huesが何を成し遂げてきたか、といったことの方がよっぽど重要であり、自分はそれを誇りに思っている、といったことを言っていました。全くその通りだと思います。


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