ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年4月4日木曜日

映像産業の補助金制度について考えてみる その4

Rhythm & Huesのお話で1回間が空いてしまいましたが、補助金問題に戻りたいと思います。ところで全く関係ないのですが、私のブログ、GoogleのBloggerを使っております。で、恐らくどこのブログもそうかと思いますが、Bloggerもアクセスの統計データというのを見ることが出来まして、実はここ1、2週間の間にフランスからのアクセスが急伸しています。アクセスが最も多いのは日本からですが、その次のアメリカに次いで、今なんと3番目です。理由は全く不明ですが、喜ばしいことです。いずれフランスのマドモアゼルとしっぽりよい仲になる日も近いのではないかと思います。

さて前回まで、補助金制度とその弊害などを話してきましたが、これをきっかけにして、今VFX産業のあり方そのものを問う動きが出てきつつありますので、今回はこれに関してお話ししたいと思います。

このシリーズの最初の回でお話ししましたが、多くのVFXスタジオは、アンダービット(適正価格を下回る入札)をして仕事を受注し、ギリギリのマージンで自転車操業をしています。また、落札した仕事の受注価格はそこで決まってしまいますから、その後の過程で製作期間が延びたり、監督の意向で作業が増えたりしても、損失分をVFXスタジオが吸収するしかない、というのが現状です。そこで、こうした動きを食い止めるべく、VFXスタジオの間で、同業者組合(Trade Association)を結成するべきだ、という意見が出てきました。この考えの最も熱心な支持者が以前の投稿でもご紹介した、Digital Domainの創業者であり元CEOでもあるScott Rossです。彼は、VESのような団体はこうした業界の利益を代表するにはあまりにも発言力が弱く、また実際その意志もないので、これとは別に、主に各VFXスタジオの代表者が中心となって同業者組合を結成し、映画会社との交渉にあたるべきだ、と考えているようです。彼はだいぶ前からこうした考えをことあるごとに業界の仲間に話していたようですが、これまであまり芳しい反応はなかったとのことです。しかし、業界の状態が今のような危機的な(少なくともカリフォルニアの業界にとっては)状態に陥った以上、以前よりは賛同者が増えてくれるのではないか、と考えているようです。

一方、現場で働くアーティストやTD達からは、労働組合を結成して、労働者の権利を守るべきだ、という動きも出てきました。以前もお話しした通り、こうした動きは労働コストの上昇を招くため、既に危機的な状況にあるVFXスタジオにとっては向かい風にしかならない可能性があるのですが、Trade Asociationの動きと連動させることによって、まずVFXスタジオの利益を確保し、その上でアーティスト達に十分な福利厚生を提供する組合の積立金を映画会社に捻出してもらうことによって、これを両立しようという考え方も出てきています。

また、今回の動きは、こうした組合を世界に広げようとしているところも今までと趣の異なるところです。この動きを紹介しているサイトwww.vfxunion.infoによると、アメリカやカナダ、イギリスのようなVFX産業の活発な国だけでなく、インドや南アフリカのような国にまで広がっているのがわかります。前回の投稿で、補助金のスキームが仮に効かなくなっても、映画会社は根本的に人件費の安い国に仕事を発注して、価格を抑えようとするだろう、というお話をしました。人件費の安い国というのは、経済力が先進国よりも劣るが故に相対的に人件費が安い、という場合もあるのですが、労働者が不当に搾取されているが故に安いというケースもあります。インドや中国などで、そういった労働者搾取が行われているという話はよく聞きますし、イギリスのような先進国ですら、VFXスタジオがスタッフに対して残業手当を払わない、といったことが普通に行われている訳ですから、映画会社が安い労働力を求める先には、根本的な労働者保護のための規律が不足している可能性があります。故に、労働組合のムーブメントの足並みを世界で揃える、というのは、補助金問題とは直接関係ありませんが、意欲的な試みといっていいでしょう。

私個人的には補助金制度がなくなることはないと思いますが、それはともかく、VFX産業が健全な状態とはほど遠いということは関係者の間ではほぼ一致した見解です。「ライフ・オブ・パイ」のプロダクションの予算は1億2千万ドルほどと言われていますが、世界興行収入はこのブログを書いている時点で6億ドルに上ります。これは劇場興行の売り上げだけですから、ブルーレイやケーブルテレビ、オンライン配信を含めると、更に大きな額になります。にもかかわらずこの映画のVFXのマジョリティを手がけたRhythm & Huesが倒産を免れないというのであれば、これは確かに不健全と言わざるを得ません。そのため、今回のVFX業界に流れるかつてない大きな変革へのムーブメントに期待を込める人も少なくありません。アカデミー賞授賞式当日に行われたHollywoodでのデモがその第1歩だとすると、その第2歩は、3月14日に行われた、世界のVFX産業都市を中継で結んで行われたタウン・ホール・ミーティングがそれだと言っていいでしょう。そこで、このタウン・ホール・ミーティングでいったい何が話し合われたのか、次回はそれをお話ししたいと思います。

2 件のコメント:

  1. イギリスでは時間外労働に対して賃金を支払う義務がないので、VFX業界に限らず、残業代がでないのが一般的です。

    https://www.gov.uk/overtime-your-rights/overview

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    1. そのようですね。何ともお気の毒なことです。

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