ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年4月10日水曜日

VFX業界 タウンホール・ミーティング

木村でございます。今回は、ちょっと時間が経ってしまいましたが、3月14日に開かれた、VFX業界タウンホール・ミーティングのお話をしたいと思います。タウンホール・ミーティングとは何かといいますと、政治家や草の根運動の活動家達が、街の公民館などに集まって、一般の人たちと直接対話をしたり、議論をしたりする活動を総称してこう呼ぶようです。VFX業界が今回、タウンホール・ミーティングを開いた背景ですが、既にこのブログでも何回かお話ししたとおり、今(特のアメリカの)VFX業界は転換点にきており、この産業のあり方、あるいはビジネスのやり方に関して、再考を迫られている状況にあります。そしてその空気が一気に運動にまで高まったのが、Rhythm & Hues Studiosの倒産に端を発したオスカー授賞式当日のデモであり、これをきっかけに、主にネットを介してさまざまな運動の呼びかけがおこわなわれるようになりました。前回の補助金制度のトピックでも取り上げましたが、ハリウッド映画を手がけるVFX産業は既に世界中に広まっているため、これを世界のVFXアーティストをつなげるムーブメントにしようという動き(VFX Solidarity International)もあります。

そこで、この問題に関して積極的に関わっている人達を迎えて、今後どういった活動をしていくべきなのかを議論しよう、ということで、恐らくVFX業界初のタウンホール・ミーティングが開催されることになった訳です。このミーティングはLAが中心となって行われましたが、それに加えて世界中の他の街、即ちサンフランシスコ、テキサスのオースティン、カナダのバンクーバー、そしてニュージーランドのウェリントンがネットのライブ・ストリーミングを介して参加し、質疑応答も行われました。この模様は録画され、YouTubeにその模様が全編アップされています。



このYouTubeビデオ、3時間近い長さがありますので、簡単に内容をまとめてみますと、以下のようになります。

メインスピーカーとして登壇したのは、主に以下の人達です。
  • Dave Rand・・・Rhythm & HuesのベテランEffects TD。現役のVFXアーティストの代表として、さまざまなメディアで今のVFX業界の苦境を訴えている。
  • Scott Squires・・・やはりベテランのVFX Supervisor、Director。長年ILMで活躍してきたが、今はフリーランスで活動している。代表作に「未知との遭遇」など
  • Steve Kaplan・・・The Animation Guild(TAG - アニメーション業界の労働組合)の代表。TAGはVFX業界の組合結成を後押ししている
  • Dusty Kelly・・・カナダの映像業界の労働組合の代表
  • Gene Warren Jr.・・・ミニチュアやストップモーション・アニメーションを使ったトラディショナルなVFXを手がけるFantasy 2 Film Effectsの代表。「ターミネーター2」などを手がけた
  • Mike Chambers・・・Visual Effects Society(VES - VFXの業界団体)の副会長
  • Scott Ross・・・既にこのブログでは何度か触れましたが、Digital Domainの創業者の1人であり、元CEO

最初のスピーカーであるDave Randが今回のミーティングの趣旨を話した後、Scott Squiresが具体的な問題とその解決策に関する提案を行いました。それは大体以下のような内容です。
<問題点>
  1. 補助金制度。VFX業界はプライベート・セクターであるにも関わらず、補助金制度があるせいで政治家によってその勝者と敗者が決められている。VFXスタジオがどんなによい仕事をしても、結局は補助金のあるところに負ける。補助金が仕事を作り出すことはなく、単に補助金のあるところに仕事が移動するだけなのが現実だ。そして、それに合わせてVFXアーティスト達も、半年おき毎とかに世界中を移動しなければならない。
  2. 過当競争。しかも補助金のせいで競争が不公平である。補助金を使ってアンダービッティングしているために、ますます利益が出づらくなる。
  3. ビジネス・モデルの破綻。何を要求されても料金が固定である。
  4. 劣悪な労働環境。長時間労働が当たり前であり、しかもアメリカでは健康保険をサポートしていない会社がある(アメリカでは国民皆保険制度がなく、個人で加入するか、会社がサポートするのが普通です)。
<解決策>
  1. 法的措置。VFX Soldier(以前紹介した補助金制度に反対しているVFXアーティストのブロガー)が補助金制度の違法性を訴えるために、リーガル・チームを組織している。
  2. ビジネス・モデルの再構築。具体的には、制作に関わった映画のヒットに応じて、ロイヤルティを得られるようにするなど。
  3. 労働組合を組織する。既にある撮影スタッフなどの組合は、映画が売れると、ある程度のお金が組合員の福利厚生のファンドに入金されるようになっている。こうした形がモデルとなりうる。
  4. 同業社組合(Trade Association)を結成する。
また、労働組合側の立場から、Steve KaplanとDusty Kellyがその必要性を説明しました。

Gene Warren Jr.からは補助金問題に関する話題が出ました。彼によると、カナダが映像業界に対する補助金制度を導入したのは1998年のことで(彼は「補助金戦争」と呼んでいますが)、Film Television Action Commiteeのエグゼクティブの1人であった彼は、2002年を最初に、合衆国政府に対して2回、補助金制度を導入している国(自治体)をその違法行為で訴えるよう働きかけたそうですが、2回とも失敗したそうです。しかし、今回のこのVFX業界のこれまでにないムーブメントを見て、今回はいけるのではないか、と考えているようです。このタウンホール・ミーティングはカナダやニュージーランドなど、補助金制度を積極的に導入している国からも参加者がいた訳ですが、このミーティングの開催地であるLAからは、補助金制度に対するあからさまな反発が感じられました。それがはっきり出たのがこの後に登壇したVESの副会長のMike Chambersのスピーチです。

以前のブログの投稿でもお話しした通り、VESはカリフォルニア州に対して、カナダやイギリスに対抗できるような補助金制度を導入するよう求めた公開書簡を公表した訳ですが、Mike Chambersがこれに言及すると、LAの会場にいたアーティスト達が一斉にブーイングをしたのです。Mike Chambersはこれに関しては終止防戦一方で、結局この後VESは戦略の変更を迫られることになります。

最後に登壇したのはScott Rossです。元VFXスタジオの経営者であり、長年この問題に取り組んでいるだけあって、弁舌も滑らかで、話も要点を押さえていました。内容は以下のようなものです。
  1. VESは素晴らしい組織だが、いわば名誉団体であり、実質的にVFX業界に資する活動をする別の団体が必要だ。それが即ち労働組合(Union)であり、同業者組合(Trade Association)だ。我々のクライアントは6つの映画会社であり、彼らですらTrade Associationを持っている。彼らは株主のために金を稼いでいるだけであり、悪魔などではなく、自分たちの仕事をしているだけだ。我々もそうする必要がある。我々はテクノロジーの話ばかりして、ビジネスの話をしていない。
  2. 自分は労働組合を支持するが、それにはタイミングが重要だ。組合にはコストがかかる。まずはTrade Associationを組織し、スタジオの利益を守れるようになった上で、組合を組織する必要がある。
  3. ビッティングのテンプレートが必要だ。皆バラバラにビッティングしている。
  4. 標準化された契約が必要だ。受けたはずの仕事をキャンセルされたときなど、キャンセル・フィーを払ってもらう必要がある。
  5. ロビーが必要だ。補助金制度は上手くいかない。それを政治家達に上手く説明しないといけない。
  6. 皆を啓蒙する必要がある。映画会社には、我々が何をやっているのかをちゃんと理解してもらい、しかるべき金額を払ってもらう必要がある。そのためには、観客にも我々の仕事を理解してもらう必要がある。
また彼からは、既に15社ほどのメジャーVFXスタジオのエグゼクティブにTrade Associationの可能性に関して話し合えないかと話を持ちかけ、その大半からポジティブな返事をもらっているという発表もありました。

この後、全ての会場を通しての質疑応答があり、この日のミーティングは閉幕しました。

このミーティングは参加しなかった地域にもインスピレーションを与えたようで、この後4月3日には、ロンドンでイギリスのVFX業界のタウンホール・ミーティングが開かれています。イギリスでは、既に同業社組合に似た組織が存在すること、国民皆保険制度があり、アメリカのように雇用主が全てを負担する必要がないことなどから、話は主に時間外労働に対する賃金の不払いに集中したようです。そのため、やはり労働組合の結成を求める声が多く聞かれたようです。

これまで何回かにわたって、ハリウッド映画に関わるVFX業界の動きに関してお話をしてきました。このブログを書き始めたときは、よもやこれだけの大きな動きが始まることは予想もしていなかったのですが、この業界で働いている以上、今後もこのテーマに関しては目を離さず追っていきますので、また何か動きがありましたら、このブログでお伝えしたいと思います。

2 件のコメント:

  1. はじめまして。
    日本で映画DVDを楽しんでおります、一般市民です。
    Life of piの視聴後、ネットの海からこちらに流れ着きました・笑

    一連の記事、とても興味深く拝見させていただきました。
    僕がハリウッド大作をよく見る理由は、キャストやシナリオの質も去ることながら
    やはりVFXの凄さ、映像に超気合い入ってるもの見たい!のが大きいのですが
    (国産映画にはなかなか、そういった凄まじいスケールのものが少ないので)
    まさか、それらを生んでいるVFX業界が、経済的に困難になりがちな事情を抱えていたとは
    正直ビックリしました…もっとバンバン儲かっているものだと思ってました。

    クライアント都合で受注額を超えてるのに、スタジオ側が持ち出しとか
    いわゆるロイヤリティー無しの買い取りですとか、そりゃあんまりですね。
    やったらやった分だけ、貢献度に応じて対価を受け取るのがジャスティスだと思います。
    僕は音楽作家をやっていて(劇伴野郎なので、いずれ映画をやりたい…)
    音楽事務所が酷いピンハネする現場を、実際に多く見てきて感じるのですが
    こういう世界って、分配が全然デタラメ、絶対オカシイって気がします。
    そんなところも重なり、最先端VFX業界の問題に、他人事ではない気持ちを
    抱いてしまい、こういった長いメッセージをお送りするに至っております・笑
    値下げ競争はチキンレースと言いますし、激突炎上するような事態になる前に
    記事にありました解決策でもって、上手いこと運べばいいなと願っております。

    あとLife of pi、映像としての海の表現は、これまで見たことのない美しさで
    正直トラさんよりも、海シーンに釘付けでした!水中で沈んでいく船を
    見てしまう主人公のシーンとか、すっげー新しいなと、ビビッときました。

    長文で失礼しました!
    益々のご活躍と、ご健康・ご武運をお祈りしております。

    返信削除
    返信
    1. ご感想ありがとうございます、励みになります。私は音楽業界には疎いのですが、大変そうですね。映画の音楽出来るようお祈りしております。

      削除

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。