ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年5月31日金曜日

写真を撮ってみる その1

木村でございます。今回から何回かにわたって、写真のお話をさせて頂きたいと思います。私は写真に関してはただのアマチュアなのですが、シネマトグラフィの勉強に役に立つため、積極的に学んでいる趣味の一つです。実際CG業界、特にライティングやコンポジットを専門にしているCG屋で写真を趣味にしているという方は多いです。写真でも動画でもレンズと光の扱いに対する考え方は基本同じですし、デジタルになってからはビットデプスの深い写真(RAWフォーマット)をデジタル処理するというワークフローが一般的になってきたということもあります。今日本ではどうなっているかちょっと存じ上げないんですが、アメリカのCG業界ではレンダリング画像を8ビットで書き出すところはほとんどなくなってきており、16ビットの浮動小数点で出力するのが一般的です。フォーマットはまちまちですが、Open EXRかDPXが多いと思います。こうしたビットデプスの深い画像はダイナミック・レンジが広いので、後々の調整で画像を思ったようにいじることが出来ます。ちなみに動画でもBlackmagicから近々Cinema DNG(動画のRAWフォーマット)で撮れるコンシューマー向けのムービーカメラが発売されるため、私もちょっと楽しみにしているのですが、動画よりもスチルの方が気軽に勉強しやすいでしょう。

ちなみに私がこれまで撮った写真の幾つかをFlickrに上げてあるのですが、これをご覧になった方からどうやって撮ったのか、とのご質問もありましたので、それにもお答えさせて頂きたいと思います。繰り返しになりますが私はあくまでアマチュア・フォトグラファーですので、かなり偏ったお話しになるかと思いますが、写真を今までちゃんとやってみたことがない、という方には少しは興味を持って頂けるようなお話が出来るのではないかと思います。また、写真に詳しい方からのサジェスチョン等も頂戴できるとありがたいと思っております。

カメラを用意する

第1回の今回は、機材をそろえるお話です。写真を撮る訳ですから、カメラがないと話になりません。私としては以下の3点をポイントに用意して頂くことをお勧めします。
  1. 明るいレンズがついている(あるいはつけられる)
  2. センサーのサイズが大きい
  3. RAWフォーマットで写真を保存できる
ではこれらのポイントがどういう意味を持つのか、順にご説明します。

1. 明るいレンズがついている(あるいはつけられる)


まず明るいレンズとはどういう意味か、ということですが、これは単純に言って光をより多く取り入れることが可能なレンズを指します。写真に詳しくない方でも、カメラのレンズには絞り(英語ではApertureと言います)、という機能がついていることは聞いたことがあるかと思います。この絞りとは、カメラの感光面(デジタルカメラで言うとセンサー)に入ってくる光の量を調整するためのもので、カメラの説明書を読むと、Fで始まる数字をコントロールすることで、この絞りを調節できるということがどこかに書いてあるはずです。このF値は、小さければ小さいほど、より大きく絞りを開くことが出来る(つまり、F値と絞りを開く大きさは反比例します)のですが、この絞りをどれだけ大きく開くことが出来るかは、レンズによって異なります。そのため、巷にあるカメラのレンズは、必ず絞りを最大まで開けられる値をそのレンズのスペックとして表示しています。例えばあるレンズのスペックが、50mm F2.8としましょう。50mmというのはそのレンズの焦点距離で、これで画角を知ることが出来ます。次のF2.8が絞りの最大解放値で、このレンズはF2.8まで開ける、ということを意味します。ここにまたもう1つのレンズ、50mm F1.2があるとしましょう。このレンズは焦点距離は先にあげたレンズと同じですが、F値は1.2となっています。ということは、このレンズは先のレンズよりも、より大きく絞りを開くことが出来る、即ちより明るいレンズである、ということが言える訳です。

ちなみに、ズームレンズの場合は、そのレンズが広角側に設定されているか、あるいは望遠側に設定されているかによって、このF値が変わる場合があります。その場合は、28-135mm F3.5-5.6といったように、どれだけのレンジで変わるかがレンズに書かれています。

明るいレンズがいいということの理由は、まずレンズが明るいことによって、少々暗い場所でもフラッシュを焚いたり、高いISO値(センサーの感度を変更するための値で、この値が大きいと、暗いところでも写真が撮れる代わりに画像にノイズが発生しやすくなります)を使ったりすることなく、写真が撮れることです。自然の光源だけで綺麗な写真が取りたい、という場合、これは非常に重要なファクターです。また、明るい場所では絞りを大きく開けることで、シャッタースピードを速くすることも出来ますから、動きの速いものを綺麗に撮りたい時などにも有効でしょう。ちなみに英語では、明るいレンズのことはFast Lens(早いレンズ)といいますが、これもそういう理由によります。

しかし、明るいレンズを使って欲しいということの最大の理由は、被写界深度(Depth of Field)にあります。CG、特にレイアウトやライティング、コンポジットに関わっている人であれば、この被写界深度はなじみのある言葉でしょう。これはフォーカスが合っている範囲のことを指し、被写界深度が深ければ深いほどフォーカスの合っている範囲が広く、浅ければ浅いほどこの範囲が狭くなります。この被写界深度は絞りの値と密接な関係を持っており、絞りを大きく開ければ開けるほど(つまりF値が小さければ小さいほど)、被写界深度が浅くなる、という特性があるのです。被写界深度が浅い、つまりフォーカスの合っている範囲が狭い絵は、シネマトグラフィにとって非常に重要であり、絵作りに決定的な影響を与えます。そしてそういう絵を作るためには、F値の小さいレンズが非常に有効なのです。

どのぐらい小さいF値のレンズがいいのか、ということですが、実はこれは次にお話しするセンサーサイズによっても異なります。しかし、大体F2.8以下であれば、かなりいい性能と言っていいでしょう。単焦点レンズ(一つの焦点距離しか持たないレンズ)であれば、F値が1.8とか1.2とかいうのもありますので、そういうレンズはより浅い被写界深度を得られます。


2. センサーサイズが大きい


デジタルカメラのセンサーは機種によってサイズが違います。大きいものになると、35mmフィルムと同等のサイズ(フルフレームなどと呼んだりします)になるものもありますが、当然価格も高価になります。ですので、スナップショットを取るのが主な目的であるコンパクト・デジタルカメラや、携帯電話のカメラなどは非常に小さいサイズのセンサーを採用しています。センサーサイズを比較しているとても見やすいサイトがありましたのでご紹介します。

     http://takuki.com/gabasaku/CCD.htm

このセンサーサイズ、なるべく大きいものをお勧めします。出来れば35mmフルサイズがいいところですが、ここまできますとカメラもプロ用やセミプロ用の非常に高価なものになってきますので、せめてAPS-Cかフォーサーズ(4/3などとも書かれ、ミラーレス・カメラによく使われているマイクロ・フォーサーズ、m4/3もセンサーサイズは4/3と同じです)辺りを狙いたいところです。センサーサイズが大きいと、まず画質がよいというメリットがあります。レンズから入ってきた光を捉える撮影素子は、大きければ大きいほどより多く光を捉えられ、結果としてより鮮明な画像を得ることが出来ます。もう1つの理由は先ほどご説明した被写界深度の問題です。

実はセンサーサイズが小さいと、レンズから入ってきた光を受け止められる領域も当然ながら狭くなります。結果として、レンズに対して画像は大きいサイズのセンサーで捉えたものよりも狭い領域にトリミングされた絵になるため(つまりやや望遠よりになる)、大きいサイズのセンサーと同等の画角の絵を得るためには、レンズの焦点距離を短くしなくてはなりません。よくAPS-Cや4/3用のレンズが、「35mm判換算で何mm」という表示を出していますが、あれはフルフレーム用のレンズで同等の画角を得られる焦点距離が何mmにあたるのかを表しているのです。被写界深度は、先にお話しした絞りの値の他に、もう1つレンズの焦点距離にも影響を受けます。すなわち、レンズの焦点距離が長い方が浅い被写界深度を得やすいのです。しかし、センサーサイズの小さいカメラでは、大きいサイズのカメラと同等の画角を得るためには焦点距離の短いレンズを使わなければならないため、相対的に被写界深度が深くなってしまうのです。ですから、被写界深度に限って言えば、どんなに明るいレンズを手に入れても、センサーサイズが小さければ、その効果はセンサーサイズに応じて減じられてしまいます。センサーサイズが大きい方がいいというのは、こうした理由によります。


3. RAWフォーマットに対応している


多くのデジタルカメラは、特に何の設定もしていなければ、通常は撮影した画像をJPEGフォーマットに保存するようになっているはずです。しかし、カメラのセンサーに入ってきた光の情報が全てこのJPEGフォーマットに書き出される訳ではもちろんありません。まず、一般的なデジタルカメラのセンサーは、入力された光の情報を12ビットとか14ビットとかいった深さのデータとして保持しています。このデータは、最終的にJPEGで書き出される際、ホワイトバランスや特定のピクチャー・スタイル(風景モードやポートレイト・モードといった味付け)、レンズに応じた工学的な補正等の調整を行った後、RGB各8ビットのJPEGとして書き出されます。従って、もし元々の12ビットの未加工のデータを後で自分でコントロールできれば、写真をより思い通りの仕上がりに出来ることは容易に想像できます。実際そういう要求に応えるため、ミドルレンジ以上のカメラの多くが、RAWフォーマットをサポートするようになりました。このRAWフォーマットはセンサーから吐き出される12とか14ビットの未加工の画像データを各カメラ・メーカーの独自フォーマットに保存したもので、これらのフォーマットは通常のイメージ・ビューワーなどでは見ることが出来ませんが(*)、それらのカメラに付属しているRAW現像ソフト(フィルムの現像になぞらえて、RAWフォーマットから画像を作り出すことを現像処理と呼んでいます)や、AdobeのPhotoshop Lightroom、AppleのApertureなどといった専用ソフトで調整、JPEGやTIFFへの書き出しが出来ます。このRAWフォーマットの調整処理は、実際フィルムの現像処理と同じく、写真の仕上がりに決定的な影響を与えるものです。したがって、写真を勉強しているCGアーティストは画像をRAWフォーマットで保存し、後で自分で調整してみることを強くお勧めします。手持ちのカメラの写真を保存するフォーマットにRAWが含まれているかどうかは説明書等に記載されているはずですので、それをチェックしてみてください。

次回は実際に市販されているカメラにはどんなものがあるのかを、タイプ別に見ていきたいと思います。


* 読者の方からご指摘があり、Macでは標準の環境でRAW画像がビューイングできる、とのことでした。


これはスタンリー・キューブリックが「バリー・リンドン」という映画の撮影のために使ったカメラです。キューブリックはこの映画の屋内のシーンをろうそくの明かりだけで撮るために、Carl Zeissが元々NASAのために開発したというF0.7という非常に明るいレンズを使っています。

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