ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年5月13日月曜日

VFX業界 タウンホール・ミーティング スタジオ経営者編

木村でございます。先週あったニュースですでにご存知の方も多いかと思いますが、5月7日にRay Harryhausenが亡くなりましたね。享年92歳ということですから、大往生と言ってもいいのではないかと思いますが、歴史に残る偉大なVFXアーティストであるだけに残念です。

実は私、彼が亡くなったというニュースは少々驚きでした。これは私がSony Pictures Imageworksに勤めていた頃のことなんですが、Culver CityのImageworksのスタジオには試写室がありまして(試写室と言っても小さな映画館くらいの広さがあるんですが)、私が「曇り時々ミートボール」や「Alice in Wonderland」の制作のためここに通っていた頃は、この試写室はInce Theaterと呼ばれていました。この試写室はImageworksの敷地の西に立っていたのですが、敷地の西側にはInce Boulevardという通りがあるため、この通りの名前から取られたものと見られます。ところが、その後Disneyで働くことになり、1年ほどして「アーサークリスマスの大冒険」のために再びImageworksに戻ってみますと、この試写室の名前がRay Harryhausen Theaterに変わっていたんですね。最初「Harryhausen Theaterでマンスリー(月例ミーティング)やります」と言われた時は、「どこだそれ!?」と度肝を抜かれたものです(おおげさですか)。で、Ince TheaterがRay Harryhausen Theaterに変わったと知った私は、すっかり「そうか、Harryhausenて亡くなったんだな。それでそれを追悼して名前変えたんだろう。残念です」などと思ったものです。ですので、今回彼の訃報を聞いたときは「Harryhausenってまだ生きてたんかい!?で死んだんかい?」などと失礼にも思ったものです。後で知ったのですが、Imageworksの試写室の名前が変えられたときには当然彼はまだバリバリに生きていて、自分の名前がついた試写室の前で記念写真まで撮っていったということですから、完全な私の勘違いでした。そんな訳で彼のご冥福をお祈りしたいと思います。

前置きが長くなりましたが、今回は4月26日に行われた「VFX業界 タウンホール・ミーティング スタジオ経営者編」の模様をお伝えしたいと思います。これは3月14日に行われた最初のタウンホール・ミーティングを受けて、今度はVFXアーティスト達ではなく、VFXスタジオの経営者達を集めて今のVFX業界の問題点について語ろう、というもので、ミーティングは全てウェブのライブ・ストリーミングを通じて行われました。スピーカーはカリフォルニア、カナダのトロントとモントリオール、イギリスのロンドンから集まり、一般の参加者(ストリーミングをライブで見ている人達)はFacebookなどを通じで質問を投稿できるようになっており、モデレーターはそうした投稿をチェックして、参加者に質問する形式を取っていました。この模様は収録されてYouTubeにアップされています。



前回同様非常に長いビデオですので、ダイジェストをお伝えします。今回のメインスピーカーは以下の人達です。


  • Matt Winston - ミーティング前半のモデレーター。Stan Winston Schoolの創業者であり、Stan Winstonの息子。
  • Bill Gilman - VFXアーティストでミーティング後半のモデレーター。
  • Neishaw Ali - SpinVFX (Toronto, Canada) の社長。Spin VFXはAliasやSide Effectsといったソフトウェア会社と同じ創業者によって立ち上げられたカナダのVFX会社の古参。
  • Jeff Barnes - 今は亡きCafe FX (Santa Monica, CA) の創業者。Digital Domain Floridaの運営にも関わった。
  • Danny Bergeron - Mokko Studio (Montreal, Canada)の社長。Alias, Softimage, Discreet Logicなどの創業に関わってきた。
  • Paddy Eason - Nvizible (London, England)のVFXスーパーバイザー。Nvizibleは2009年に設立された新興VFXプロダクション。
  • Phil Feiner - Pacific Title & Art Studio (Burbank, CA)の経営者。
  • Jules Roman - Tippett Studio (Berkeley, CA) の社長。
  • Carl Rosendahl - PDI (Redwood City, CA - 現PDI/DreamWorks) の創業者。現在カーネギー・メロン大学で教職に就いている。

内容は前回同様、現在VFX業界が抱えている問題をどうやって解決すべきか、ということだった訳ですが、前回のVFXアーティストが中心のタウンホール・ミーティングに比べると、内容は非常に実利的で、ドラスティックな解決策に対しても消極的な様子がうかがわれました。彼らとしてはいつ実現できるかわからない急進的な解決策を練っている間にも、スタジオを操業し続けていかなければならないという極めて現実的な問題があったためと思われます。

特に補助金問題に対しては、スピーカーの中にカナダやイギリスからの参加者がいたということもありますが、アメリカ側からもTippett StudioのJules Romanの様に、基本的には外国の政治家が決めていることであり、補助金を実施している自治体や映画会社にとってそれが機能しているのであれば、自分たちとしてはどうにもならない。それをどうこう言うよりも他に何かクリエイティブな解決策を使って利益を上げることを考えるべき、という意見が大半でした。ちなみにTippett Studioは最近大幅な人員削減を実施したところで、人員の一部か大部分をカナダに移すことも検討している、と報じられています。

Romanからはまた「クリエイティブな解決策」の具体例として、自分たちでゲームやモバイル・デバイス用のコンテンツを作っていく、という話が出ました。これに対してCarl Rosendahlからは、PDIの運営に関わった立場として、PDIはDreamWorksと組んで上手くいったが、自分たちでコンテンツを作るビジネスは極めて難しく、誰にでも出来ることではない、との指摘が出ました。また、今回の参加者の中では唯一補助金制度に対して反対の立場を取っていたPhil Feinerは、自分はVFXの仕事が好きであり、コンテンツを作るビジネスには興味はない。それよりも、Trade Associationを立ち上げて不公正な方法で仕事を持っていっている外国に対して対抗すべき、という意見が出ました。アメリカ側の参加者はほとんどが補助金制度に対しては距離を置いているようでしたが、VFXのビジネス・モデルが破綻していることには疑問の余地はないようで、Trade Associationに対してはJules Romanも関心を持っているとのことでした。

イギリスのNvizibleのPaddy Easonからは、比較的小規模なスタジオを経営している経験から、自分たちでコンテンツを作ることは考えていないが、インディペンデント・フィルムのクリエーター達と非常に近い位置でもの作りをすることは自分たちに取って重要だ、との感想が出ました。モデレーターのMatt Winstonもこれには同感なようで、VFXのビジネス・モデルが上手くいかない理由としてVFXスタジオと映画会社の関係に言及し、自分の父親(Stan Winston)は、自分たちのことをベンダーではなくクリエイティブ・パートナーと捉えてくれる人達を重要に考えていた、と説明しました。

一方、前回のタウンホール・ミーティングでは圧倒的な支持を得ていた労働組合ですが、やはりと言うべきか、スタジオ・エグゼクティブが中心の今回はこの動きに対してはかなり冷淡な態度が目立ちました。多くのスタジオ・エグゼクティブにとっては、労働組合は単に労働コストの上昇を意味するものでしかなく、もしこれが導入されれば仕事のオフショア(中国、東南アジアなど)へのアウトソースを加速させるに過ぎない、というのが大半の意見です。ただ、Jules Romanは組合が不必要な理由として、カルフォルニアの労働法がすでに十分に厳しく、労働者の権利を守るために効力を発揮している点を上げ、そうでない国では組合を検討する価値があるだろう、という話が出ました。

最後にモデレーターのMatt Winstonから、2020年に成功しているVFXスタジオの姿とはどんなものだろう、という質問が出たのですが、多くの点で参加者の意見は一致していたようです。それは主に以下のようなものです。


  • スタジオの規模がプロジェクトに応じてフレキシブルである。コアとなる常駐スタッフ(マネージメントやシステム、パイプライン)は残すだろうが、その数は5〜50人くらいになるのではないか。残り(特にアーティスト)はそのほとんどがフリーランサーとなり、スタジオからスタジオ、プロジェクトからプロジェクトへと渡り歩くことになるだろう。
  • 全体的にさまざまなことが出来るというよりも、1つか2つのことに秀でた、スペシャライズされた集団。
  • キーとなる人々を北米に持ちつつ、アジアなどにビジネス展開している。
  • VFXだけでなく、コンテンツ・ビジネス(特にモバイル系)などなどもカバーしている。
  • クライアントと非常に緊密な関係を築いている。
  • アーティストは自分たちで機器を持ち歩くようになり、スタジオはクラウド・コンピューティングなどを利用して、ファッシリティの規模縮小をはかる。

ここに上げられたことの幾つかの項目はすでにもう起こっていることであり、特に驚くことではないのですが、ユニークな視点を提供したのがPaddy Easonです。彼は、今から10年後VFXスタジオが存在しているかどうかもわからない、という意見を述べています。彼によると、他のフィルム・プロダクションの作業が終わるのを待って、それに対してVFXを提供する今のビジネス・モデルは奇妙な形だ。今までは非常に大規模な設備が必要だったために、マザーシップのようなファッシリティが必要だったが、これからはプロジェクトごとにVFXアーティストや設備を集めて制作をこなしていく、まさに映画作りの他のデパートメントと同じようなやり方に移っていくかもしれない、とのことでした。一方Jules Romanは、小さなプロジェクトならそれでもいいが、ハリウッドのテントポール・ムービーにはそれなりの規模のファッシリティが必要であり、これからもそうだと思っている、という意見が出ました。

今回のミーティングはスタジオのエグゼクティブによって行われただけに、リアリティのある話が中心でした。しかし現場のアーティストにとっては、自分たちも含めた業界全体を変えるための根本的な解決策に対しては明らかに及び腰のように見え、放送が終わった後のFacebookのページには多くの失望のコメントが寄せられました。一方このミーティングの後の5月2日、スタジオのエグゼクティブが集まって、Trade Associationの可能性に関して話し合いが実際にもたれたようです。ただその内容についてはまだ何も報じられていないため、どういった方向にこの動きが向かっているのかはわかりません。これに関しては、何かわかり次第またこのブログでも取り上げたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。