ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年6月29日土曜日

VFX業界 タウンホール・ミーティング NYC編、IATSE編

木村でございます。「写真を撮ってみる」の連載の途中ですが、今回は以前もご紹介したVFX業界のタウンホール・ミーティングついてお伝えさせて頂きます。この6月に2つのタウンホール・ミーティングがそれぞれニューヨークとロサンゼルスで開催され、前回同様VFX産業のあり方について議論が交わされました。2つのミーティングをそれぞれ詳しくお伝えしていると長くなってしまいますので、今回は簡単に内容を要約する形でお伝えしたいと思います。

ニューヨーク編(6月10日)



NYCでのタウンホール・ミーティングは、Colliderという映像業界向けのカンファレンスの中のイベントの一つとして開催され、参加者には現地のVFXスタジオの経営者やアーティスト、組合の代表者などにまじって、前回のLAのタウンホール・ミーティングにも登場したScott Rossもいました。今回のタウンホール・ミーティングで特筆すべき点は、NYCのVFX業界はすでにTrade Associationを組織しており(厳密にはポスト・プロダクション全てを含んでいますが)、その代表者が参加していたことです。しかも興味深いのは、このNYCのTrade Association(Post NY Allianceというそうです)は補助金制度をなくすためではなく、むしろそれを積極的にNYCに導入するためにロビー活動を繰り広げており、実際そのために、以前はポスト・プロダクション全体のために割り当てられていた補助金を、VFX業界だけ別口で確保できるようになったということで、その成果を強調していました。前回のLAのタウンホール・ミーティングを読んで頂いた方はお分かりかと思いますが、補助金制度がほとんど機能していないLAではこの制度に反発する人が多く、Scott Rossが提唱するVFXスタジオのTrade Associationもこの制度に反対するためのロビー活動をその趣旨に含めようとしていた訳ですから、同じTrade Associationでも全く方向性が違うことがわかります。

このミーティングでは、インターネットを通じてドイツのVFXスタジオ関係者からも参加があったのですが、彼らによるとドイツのVFX業界はロンドンが導入している補助金制度のおかげて大打撃を受けており、ロンドンのプロダクションに仕事を奪われたおかげて幾つかのプロダクションが閉鎖を余儀なくされたとのことでした。そのため彼らもやはり補助金制度に対して反発しており、会場ではScott RossとドイツのVFX関係者による反補助金制度派と、NYCのVFX業界関係者との間にそれとなく溝ができていました。

また、このミーティングではScott Rossからやや残念なニュースがありました。前回のLAのタウンホール・ミーティングで予告されていた15のメジャーVFXプロダクションのエグゼクティブによるミーティングが5月2日に開かれ、彼が提案していた4つの問題(内訳の詳細は不明です)のほとんどにスタジオ経営者は積極的な反応を見せなかったそうです。これは主に法律的な問題(Trade Associationのあり方が反トラスト法に抵触するのではないか、など)も絡んでいたためのようです。ただしそのうちの1つ、即ち映画会社のとの間のビジネス慣行、例えば仕事を映画会社の都合でキャンセルされてもキャンセル・フィーが発生しない、どんなにスケジュールが延びても支払いが固定である、といったことに関しては、やや前向きな反応が見られたとのことでした。その後、Scott Rossが今後この話し合いを進めていくことに対しての意見を求めたところ、このタウンホール・ミーティングが開催された時点で4つのスタジオからしか返事は来ず、そのうちの3つはこれ以上Trade Associationに関して話し合いを持つことにはあまり興味がない、とのことだったそうです。

IATSE(バーバンク, CA)編(6月25日)


IATSEとはInternational Alliance of Theatrical Stage Employeesの略であり、エンターテイメント産業(映画、テレビ、舞台芸術など)に関わる人々を広くまとめて代表している労働組合です。たくさんのローカル支部を抱えており、VFX業界に一番近いものではローカル・ナンバー839のTAG(The Animation Guild)がありますが、VFX業界自体はまだ組合を組織できておらず、その準備をしているところです。今回開催場所がこのIATSEになったのは、まさに組合を組織する呼びかけを行うためで、話の内容も基本的には組合のメリット、どうやれば組合を組織できるか、といった話でした。

ただし、エンターテイメント産業における組合の役割は、ベネフィット(年金や健康保険)を提供したり、失業中に無料のトレーニングを受けられるようにしたりといったもので、もちろんそれはそれで重要ですが、レイオフから会員を守ったり、補助金制度に対してロビー活動を行うということはしていません。また前回も書きましたが、組合はVFXスタジオに更に負担を強いる可能性が大きいため、現在問題となっている海外への仕事のアウトソースに対抗する手段とは相容れない部分があります。本来であればTrade Associationの話が先行すべきなのでしょうが、VFXスタジオ側が及び腰である以上、今後どうなるのであれとにかく組合の話は進めていくべき、ということなのでしょう。

ただ、Rhythm & Huesの倒産直後で、350人ほどの出席者を集めた最初のタウンホール・ミーティングに比べると、勢いの落ち込みは目に明らかです。これはLAに残っているアーティストが少なくなってきていることも影響していると思われます。既にニュースをお聞きになった方もいるかもしれませんが、LAのベニスに拠点を置くDigital Domainが今年の終わりにはスタジオの制作業務の拠点をカナダのバンクーバーに移すことを表明しており、LAのVFX業界の先細りはいよいよはっきりしてきました。

一方、以前もご紹介したブロガーのVFX Soldierによると、バンクーバーがあるブリティッシュ・コロンビア州の経財相が補助金制度による損失額の見積もりを計算し、それが1年間で2億ドルに上るそうです(ちなみに同州が補助金に費やした総額は昨年1年で4億3700万ドルに上ります)。これはGDPが2000億ドルの州にとっては決して無視できない金額なはずであり、同州において補助金制度を推進していた左派のNDPが今年の選挙で負けたのも、これが影響していたのではないか、と言われています。

バンクーバーはカリフォルニアのVFXアーティストから見ると、仕事の移転先としては一番ましな場所と考えていいでしょう。飛行機で2、3時間しか離れていませんし、時差もありません。単身赴任したとしても、家族とコンタクトをとるのは容易ですし、その気になれば週末に帰ってくることも出来ます。生活環境も安定しており、言語や生活習慣の差もあまりありませんから、どうしても補助金のある街に移動しなければならないのであれば、多くの場合バンクーバーを選びます。しかしもしバンクーバーの補助金制度が行き詰まり、仕事の流れる先がロンドン、インドや中国、東南アジアなどとなると、これはだんだん容易ではなくなってきます。こうしたことから、補助金制度を巡る問題が今後どうなっていくのかますます目が離せないところです。

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