ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年7月19日金曜日

写真を撮ってみる その5

写真を撮ってみると題したこの連載、今回で最終回になります。前回予告しました通り、RAWで捉えきれないほどのダイナミック・レンジを得るための手段として、HDRIを用いるお話をします。最近はHDRIがカメラに機能として備わっている機種も結構あり、お持ちの方もいるのではないかと思います。私の知り合いにもそうしたカメラを持っている方がいまして、撮った写真を見せてもらったのですが、撮影後自動的にトーンマッピングをして、非常に鮮やかな画像を出力していて感心したものです。しかし、こうしたカメラをお持ちでない方でも、三脚としかるべきソフトウェアさえあれば割と手軽に作ることが出来ます。

HDRIの撮影

まず上の写真をご覧ください。これは私がLAの西にあるMarina Del Reyという街のヨットハーバーで撮ってきたものです。時間は見てお分かりの通り夕暮れ時で、暮れかけた太陽によって鮮やかに染められた空と手前のヨットの陰になっている部分の光を全て1枚のRAWで撮影するのは難しかったため、複数の写真をもとにHDRIを作り、そこからトーンマッピングしてJPEGにしたものです。普通のカメラでHDRIを作る場合は(HDRIの機能があるカメラの多くも同じことを自動的にやっているだけですが)露出違いの写真を複数毎撮影し、それを専用のソフトでマージしてHDRIにします。上の写真の元になったのは、以下の3枚の写真です。


この3つのうちの真ん中は適正露出で撮影したものです。全体にバランスは取れていますが、太陽とその周りは真っ白に飛んでしまい、一方ヨットは全体的にかなり暗いのがおわかりになるかと思います。右側は露出を2 Stop上げて撮ったものです。ヨットのディティールはかなり明るく捉えられていますが、空は全体に真っ白に飛んでしまっています。左側は2 Stop下げて撮ったもので、依然として太陽の中心は飛んでいるものの、その周りの色味はかなりとられられています。しかしヨットは完全に真っ黒になってしまいました。

このように適正露出を中心に前後2 Stop露出違いの写真を撮るのは、一眼レフ・タイプのカメラでは比較的簡単です。こうしたカメラにはブラケットと呼ばれる機能があり、シャッターを切るたびにこうした露出違いの写真を撮影するように指定することが出来るのです。これに連射機能を組み合わせれば、シャッター・ボタンを押しただけで連続して上の様な3枚、もしくはそれ以上の写真を撮ることが出来ます。しかしそうした機能がなくとも、露出値を調整できる機能さえあれば、後はカメラを三脚に固定して、1枚1枚露出を変えながら撮れば同じことは出来ます。ただ、あまり撮影に手間取っていますと、動きの早いものが写っている場合、後で修正する手間が少々増えます。

HDRIを作るソフトウェア

撮影した露出違いの写真をマージして1枚の写真に仕上げるには、専用のソフトウェアが必要です。もしPhotoshopをお持ちであれば、Photoshopにはこの機能がすでに備わっています。しかし私の個人的な経験からすると、Photoshopに備わっているこの機能、HDR Proはゴーストの除去機能がいまいちです。ゴーストとは、露出違いの複数の写真を撮影した場合、そのわずかなタイミングのずれの間に動いたものがだぶってしまう問題で、HDRIを作るソフトウェアには通常このゴーストを押さえる機能がついています。私も多くのソフトウェアを試した訳ではないのですが、HDRsoftという会社が出しているPhotomatix Proというソフトウェアの方がこの点で良好な結果を得られるので、上の写真はそれを使っています。Photomatix Proは写真のマージからトーン・マッピングまでを一貫して行えるようになっていますが、Lightroomのプラグインが同梱されており、これを使えばLightroomで読み込んだ写真をPhotomatix Proのエンジンを使ってマージし、トーン・マッピングは使い慣れたLightroomの現像機能で出来るので、私はこちらを好んで使っています。ただし、この場合Photomatix Proはマージした画像を32ビットで保存するので、Lightroom上での作業は若干重くなります。

HDRIとCG

今までカラー・スペースに関してお話ししてきませんでしたが、CG屋のブログである以上これに触れないわけにはいかないでしょう。皆さんもご存知の通り、巷の多くの8ビットの画像フォーマットはsRGBというカラー・スペースを用いています。このカラー・スペースはいわゆる2.2ガンマに対応したものです。これは、モニターが色をリニアに表示するようになっていないことから、適正な絵が表示されるように画像側で2.2のガンマ補正をかけて出力するようにカラー・スペース側で補正しているというものです。8ビット画像はこの補正情報をファイルに織り込んでおり、そのためコンピュータのモニターでも適正に絵が表示される訳です。しかしながら、HDRIのフォーマットはこのsRGBではなく、リニアのカラー・スペースを用いています。従って、HDRIから通常の8ビット画像(JPEGなど)への変換には、このカラー・スペースの違いを考慮したカラー・マネージメントが必要になります。こうした写真撮影でHDRIを作り、それをトーン・マッピングするのはいわばこのカラー・マネージメントの行為の一部を手でやっているといえるでしょう。今日CGではテクスチャなどを従来の8ビット画像で作成する一方、IBL(イメージ・ベースド・ライティング)などにHDRIを利用し、出力もEXRなどで行うため、このカラー・マネージメントの重要度が急速に増してきました。皆さんがご存知のリニア・ワークフローもまさにそのためのものです。

CGでIBL用にHDRIを撮影する場合は、シーン全体をHDRIで包まなければならないため、ミラー・ボールや魚眼レンズでシーンを半球上に撮影したり、カメラを回転させながら複数の写真を撮影して、それをパノラマに展開する必要があります。先にご紹介したPhotomatix Proにはこのような機能はないので、HDR ShopPTGuiの様なソフトウェアが必要になります。また、映画のVFXの制作に必要なIBL用のHDRIはおびただしい数になりますので、SpheroCam HDRの様な専用のカメラを使います。こうしたカメラはパノラマ状のHDRIを自動的に撮影、作成してくれます。以下のビデオはSony Pictures ImageworksがThe Smurfでこのカメラを利用したワーク・フローを説明したものです。


以上、5回にわたって写真を撮るお話をしてきました。CGがフォトリアルになるに従って、ますます写真や映画の撮影術に関する知識が、がとりわけライティングやコンポジットにおいて重要になりつつあります。機会があればまたこうしたお話をさせて頂きたいと思います。



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