ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年7月30日火曜日

映像産業の補助金について考えてみる その5

木村でございます。先週はSIGGRAPHがありましたね。実は私今回は会場に足を運ばなかったんですが、日本の知り合いがこのためにLAを訪れておりまして、久しぶりに旧交を温めに飲みにいったりして、楽しかったです。ただ、SIGGRAPH自体は全般的に縮小傾向にあったようです。これは場所がアナハイムという例年とは異なる場所だったこともあるようですが、Autodeskが機器展への出展を取りやめるなど、SIGGRAPHの重要度が下がってきていることも無関係ではないでしょう。

それはそれとして、この1、2週間の間にVFX産業では幾つかまた重大なニュースが入ってきました。1つは昨年Digital Domainを倒産の危機から救った中国のオーナ会社、Galloping Horseが香港に拠点を持つSun Innovationという会社に買収されたことです。これによりDigital DomainはSun Innovationの傘下に入ることになり、それに伴いCEOの交代がありました。Sun Innovationから経営に精通したCEOを迎え入れ、これまで同社を率いてきた生え抜きのEd Ulbrichは経営からは退きつつも同社に残り、クリエイティブ面での業務に集中するようです。新しいCEOはThe Wrapの記事の中で、今や日本を抜いて世界2位の映画マーケットとなった中国での業務を強化したい、といったことを述べる一方、仕事をなるべくLAに残せるようカリフォルニア州政府に対して税制補助を強化するようロビー活動をしたい、とも示唆しています。これは前CEOのUlbrichが同社の製作業務の拠点をVancouverに移す、と最近表明したことと相反しますが、恐らく現場からの反発が強かったので妥協案を探っているのでしょう。カリフォルニアは慢性的な財政赤字に苦しんでおり、またアメリカの自治体の会計基準は日本に比べるとはるかに厳しいと聞いておりますので、これは容易なことではないでしょう。

皆さんもご存知の通りDisneyがStar Warsの続編の制作を計画していますが、この続編の監督にあたるといわれていたJJ Abramsが監督を降りるのではないか、といった噂が出ています。Disneyはこれを公式に否定しているため、実際のところはどうかわかりませんが、doddle Proによると、Disneyはイギリスの税制補助を受けるために、同作の大部分をイギリスで撮影することを決めており、スタッフのほとんどはこのために引っ越さなければならないのですが、Abramsの家族がこれに反対しているそうです。ただ、Star Warsの制作費は膨大になることが予想されるため、Disneyが税制補助をあきらめる可能性は低く、また監督をどうしてもAbramsにやらせたいようですから、最終的にはAbramsが家族を説得するか単身赴任するかという形に落ち着くのではないか、と私は思います。

さてこの税制補助ですが、新たな展開がありました。以前ご紹介した、補助金制度に反対している匿名のブロガー、VFX Soldierがクラウド・ファンディングを使って集めた資金をもとに法律事務所に補助金制度を止めるための方策を検討させていたのですが、最近その法律事務所、Picard Kentz & Roweがその検討結果をまとめたものを発表しました。

この報告書によると、VFX Soldierを始めLAの業界人の多くが挑戦しようとしていた、合衆国政府に対して、補助金制度を実施している国をWTOに訴えさせる、という手法は現実的ではない、と結論づけられています。代わり上げられているのがCountervailing Duty(CVD)という手法で、簡単に言いますと、こうした補助金制度を利用してアメリカ国外で作られたものがアメリカ国内に輸入された場合、それに対して懲罰的な関税をかける、というものです。この制度はすでに存在し、実際に幾つかのケースで使われた前歴があるそうです。ただし、映画のVFXの様なデジタル・データに対してこの法律が適用された例はまだないため、この部分に関してはまだ不透明な部分が少なからずあるようですが、あくまでもアメリカの国内法だけで対処できるため、実現性が高い、と考えたのでしょう。

この報告書の作成にあたった法律事務所の弁護士であるDavid Yocisがfxguideのインタビューに答えていますが、このケースをファイルするには大体1年くらいかかるが、出来る可能性は五分五分以上だそうです。ただし、それが実際に効力を発揮できるように認められるかどうかは、何とも言えない、とのことでした。それ以上に気にかかるのが、これをファイルするためにいったいいくらかかるか、ということです。この点に関してはYocisは言葉を濁していましたが、このレポートを作るだけのためにVFX Soldierは1万3千ドル以上のお金をクラウド・ファンディングで集めていましたから、それ以上の資金が必要になるのは確実でしょう。それがクラウド・ファンディングだけで集められるかは、私にはやや疑問です。ちなみにYocisはSIGGRAPHでも最終日のセッションにSkypeで登場し、Scott Rossなどとこの問題に関して討議したそうです。

最後にもう1つ補助金制度に関するニュースですが、カナダのCVTニュースによると、ブリティッシュ・コロンビアの州議会で、映画"Fantastic Four"のリブート・プロジェクトが、同州からの税制補助の要請を断られた後、アメリカのルイジアナに流れてしまったことについて、民主党がこれを非難するコメントを出したそうです。

以前もお話ししましたが、同州は映像産業の補助金制度に莫大の税金をつぎ込んでおり、これを抑制すべき時に来たと考えているようです。州政府議会はすでに今年中に3億8千万ドルを税制補助につぎ込むことを見込んでおり(それでも去年に比べれば少ないですが)、これ以上の出費は避けたいところなのでしょう。ところで私の以前の投稿で、ルイジアナ州では補助金制度のせいで州の財政が圧迫しており、これが議会で問題になったというお話をしましたが、結局のところ補助金戦争から身を引く気はないようです。カリフォルニアの一人負けがますます鮮明になってきた、というのが業界全体の印象ではないでしょうか。

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