ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2013年11月28日木曜日

映像産業の補助金制度について考えてみる その6

木村でございます。「ライティングしてみる」シリーズの途中ですが、映像産業の補助金制度に関して幾つか話題が入ってきたので、今回はそのお話をしたいと思います。以前のこのブログの補助金制度に関するシリーズでお伝えしている通り、LAのVFX産業は他の地域、国で実施されている補助金制度の影響で大きな打撃を被っており、既にCafe FXやAsylum VFXのような中堅どころが閉鎖に追い込まれ、Digital DomainやRythm & Huesのような大手も倒産して外国の投資家に買収されるという状況に陥っています。この現象はこれまでLA(カリフォルニア)を中心に起きている現象でしたが、これが他の地域にも波及するようになってきたようです。


苦境に追い込まれるニュージーランドの映像産業

ニュージーランドのメディアによって伝えられた以下の記事によりますと、かつては補助金のおかげて"The Lord of the Rings"、"The Hobbit"シリーズや、"Avatar"で大成功をおさめたニュージーランドの映像産業は今、大きな岐路を迎えている、と伝えられています。

NZ's film industry under the sword (3 News)

このレポートによりますと、かつてはその補助金で大きな案件を呼び込むことに成功してきたニュージーランドの映像産業は、今その補助金制度が他国のそれとの競争にさらされており、多くの国の後塵を拝するようになってきたため、仕事が失われつつある、とのことです。ニュージーランドにかわって補助金制度でトップに立つようになったのはシンガポールで、これはなんと私も知りませんでしたが、映画の製作に使われた全てのお金の40%が補助金でカバーされるということです。シンガポールにはDouble NegativeとILMがスタジオを開設していますが、それほど多くのプロダクションが当地で行われている、という話は聞きません。一説にはアメリカから遠く、生活環境の違いも大きいため、人材を集めるのに苦慮している、という話も聞きますが、これだけの割合が補助金でカバーされるということであれば、今後シンガポールでの制作は増えていくのではないでしょうか。

シンガポールの次に続くのがルイジアナ、つまりアメリカ国内で、30%です。ルイジアナは最近補助金政策を始めたようで、以前お伝えしたように、ルイジアナもやはりこれに関しては賛否両論入り交じる論争となってはいるようですが、ファンタスティック・フォーのリブート・プロジェクトの誘致に成功するなど、それなりの成果はあげているようです。ただし、ポスト・プロダクションに関してはあまり話を聞きません。以前Sony Pictures Imageworksがニューメキシコの補助金制度に乗ってスタジオを開設したものの、人が集まらず結局ほどなくしてクローズしてしまったことを考えると、VFXショップがルイジアナに集まるようになるかは疑わしいところです。

その後はアイルランドで28%、続いてイギリス、ケベック(カナダ)、南アフリカ、韓国、イタリアが同率で25%、幾つかヨーロッパの国が20%で続き、ニュージーランドは15%ということでした。

記事に埋め込まれたビデオでも指摘されていますが、補助金制度は基本的に数のゲームであり、他国の補助金の額をさらに上回る額を提示することによって、そこから仕事を引っ張っていくゼロサム・ゲームです。他国のそれを上回る数を提示できなければ、いずれ仕事は逃げていく訳で、今回のニュージーランドの記事で、図らずもそれが露になったという訳です。

ニューヨークが補助金の見直しを始める

以前のタウンホール・ミーティングの記事で、ニューヨーク州は同業者団体(Post NY Alliance)が映像産業に対する補助金制度を導入するよう積極的に働きかけ、その結果VFX産業もその恩恵にあずかっている、というお話をしました。しかし、これもどうやら長くは続かない雲行きです。

New York commission urges cutting film tax breaks (New York Business Journal)

このNew York Business Journalの記事によると、NY州は特定産業に対する補助金制度の見直しを進めており、もし映像産業に対する補助金制度をやめれば、20億ドル程度の節約になるだろう、と推定しています。NYでは映画やテレビのプロダクションの制作費に対して30%の補助金が認められており(ですから先ほどのニュージーランドのテレビのランキングで言うと、ルイジアナと並んで2位ということになります)、年間にして4億2千万ドルということになります。これは実に現在補助金制度でしばしばやり玉にあがるカナダのバンクーバーと、ほとんど大差ない額ということになります。そのため、これを徐々に減額していこう、という案が真剣に検討されているようです。

オバマ大統領のDreamWorks Animation訪問

今週の火曜日、オバマ大統領がLAを訪れた際、DreamWorks Animationのスタジオを訪問しました。DreamWorksのCEOであるJeffrey Katzenbergはオバマ大統領の支持者であり、大口の献金者としても知られています。そのため、公式訪問先として選ばれたものとみられますが、この機会を捉えて、現在のLAのVFX産業が抱える厳しい状況をメディアを通して訴えよう、という動きがありました。

VFX Workers Stage Protest Outside DreamWorks Animation During Obama Visit (The Hollywood Reporter)

これは今年の2月に行われたハリウッドでのデモ行進の再現を試みようということだったようですが、残念ながらあまり多くの注目は集まらなかったようです。前回のデモ行進では実に480人近いVFXアーティストとその家族が集まりましたが、今回はわずかに45名程度だったそうです。開催日時が平日の昼間ということで、参加したくても仕事で参加できない、というアーティストもいたでしょうが、やはり根本的にLAにいるVFXアーティストの数が減ってきている、ということがあるでしょう。

一方、DreamWorks社内でもこの動きに呼応し、この運動のシンボル・カラーであるグリーン(合成用のグリーンバックからきています)のシャツを着てオバマ大統領を迎えよう、という話もあったようです。実際にグリーンのシャツを着たアーティストも数名いたようですが、ほとんどのDreamWorksスタッフはこの動きに反応しませんでした。これは、彼らにとってはやや他人事、ということもあるでしょうが、オバマ大統領が同社の賓客であり、グリーンのシャツを着ることによって大統領に対して抗議しているような誤解を与えてはまずいのではないか、という考えもあったようです。これに関してはDreamWorkの外でデモを行っていた人々の間でも同様で、彼らは「オバマ大統領に抗議したい訳ではなく、この業界のおかれている現状を知ってほしい」という点を強調しています。

今回のデモでは、一つきわめて注目すべき点(少なくとも私にとっては)がありました。以前のこのブログでも何度か取り上げていますが、補助金制度に反対し、法的な手段を含めた運動を繰り広げてきた匿名のブロガーVFX Soldierが、今回初めてその身元を明かし、デモのオーガナイザーとなってメディアの前に登場したのです。


 

彼の本名はDaniel Layといい、これまでSony Pictures ImageworksやDigital Domainなどで働いてきたVFXアーティストだそうです。今回身元を明らかにした理由の1つとして、自分以外の人々がVFX Soldierであると誤解されて、非難されたりブラックリストに入れられたりしているのを知って、自ら名乗り出ようと思ったということです。彼のブログは、私の独り言をただつらつらと書き連ねているこのブログとは異なり、きわめて啓蒙的であり政治的でもあるものです。身元が割れることによって攻撃の対象となったり、VFXスタジオや映画会社から目を付けられて仕事が得られなくなるかもしれない、という恐怖もあったでしょう。今回の決断はそれなりに勇気が必要だったはずであり、この運動に対するなみなみならない決意を感じます。

1 件のコメント:

  1. DWAは補助金が活発な場所には支社を構えず、代わりに中国やインドといった人件費が安く、映画マーケットが大きい地域に支社を作ってます。
    社長は補助金はいずれ無くなるor頼るべきでない不安定なもの、と考えているのかも。

    そんな社長と最高の来賓の前で補助金の抗議運動は、なんかピントがあってないというか。
    アメリカ人はともかく、外国から来た人はインドや中国よりはカナダやUKの方がマシって考えてるだろうし。

    ちなみにオバマさんのスピーチでは、映画産業の重要性と雇用の安定化について認識している、と述べてたとおもいます。

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