ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2014年2月18日火曜日

ライティングしてみる その6

すっかり延び延びになってしまいましたが、「ライティングしてみる」シリーズ、今回で最終回になります。最後はコンポジットのお話をさせて頂きたいと思います。コンポジットは厳密に言えばライティングとはまた別の作業になりますが、ライティング・アーティストがコンポジットの作業に関わるのは珍しいことではありません。とりわけフィーチャー・アニメーションの様な素材の全て(もしくはほとんど)がCGでレンダリングされている様なケースではライティング・アーティストがコンポジターも兼任するのはよくあることです。また、実写のVFXのショットであっても、コンポジターに渡す素材をライティング・アーティストの側であらかじめプリコンポして渡す、ということもよくあります。これはライティングの最後の詰めをコンポジットで行うケースや、複雑なライティングの素材をコンポ・ソフトの中で一旦整理してから渡す、ということがあるからです。そういう訳ですから、ライティング・アーティストもコンポジットに関する基本知識は身につけておくべきでしょう。

コンポジット・ソフト

今回の作例は静止画ということもあり、コンポジットは全てPhotoshopで行いましたが、実はPhotoshopはコンポジットには向いていません。元々そういう目的で設計されたソフトではない訳ですから、当然と言えばそうなのですが、巷のコンポジットソフトも安くはないため、代替え手段として使ってしまうと結構問題があります。具体的には以下の様な点です。

  • Photoshopは非破壊編集が苦手です。一旦何らかのコマンドを実行してしまうと、多くの場合メモリ上に展開された画像データに直接この変更が書き込まれてしまいます。これに対してコンポジット専用に設計されているソフトは元の画像に手をつけることなくさまざまな編集が出来ますので、変更がやりやすい、というメリットがあります。Photoshopも画像処理におけるこうした要請に応えるべく、調整レイヤーやスマート・オブジェクトといった機能を追加してきましたが、全ての機能が完全に非破壊編集に対応している訳ではありません。
  • Photoshopは8ビット、16ビット、32ビットといったビットデプスに対応していますが、このうち浮動小数点で画像を扱うのは32ビットだけです。そして32ビットで画像を扱うと、残念ながらフィルタ機能などの多くの機能が使えなくなってしまいます。それらの機能を使うためには少なくとも16ビットに変換して画像を扱わなければなりませんが、この時点でEXRが持っていたダイナミック・レンジの情報は失われてしまいます。

こういった点に関してあるいは巷で良いプラグインもあったかもしれませんが、今回の作例ではEXRを読み込むプラグインをのぞいては一切使っていません。基本的にコンポジットをする場合は、静止画であっても専用のソフトを使うのがお薦めです。世界のVFX業界のコンポジット・ソフトのスタンダードはThe FoundryのNukeです。一昔前まではNothing RealのShakeが業界標準でしたが、Nothing RealがAppleに買収され、その後程なくしてShakeの開発が打ち切られてしまうと、元々Digital Domainが開発していたNukeがそれに取って代わりました。ちなみに私がこれまでアメリカで働いてきた会社では、Appleがリリースしたソースコードを元にしてShakeに似たノードベースのインハウス・ソフトを開発したり、KatanaのようにNukeを参考にしたとみられる様なコンポジット・ソフト(Katanaは厳密にはライティングとコンポジットの機能を兼ねています)を使っていたりもしました。日本では今だにマジョリティのAfter Effectsは、残念ながら大手のVFXスタジオでは全くと言っていいほど使われておりません。ですので機能改善のためにこうしたスタジオからのフィードバックを得るチャンスもAEにはほとんどないと思います。そういった訳でNukeがお薦めですが、いずれにせよ、こういったコンポジット専用のソフトはこれからご説明する様なことは難なくこなせるはずですので、ぜひ利用を検討してみてください。

作業の実際

さて、では実際の作業ですが、あらかじめ用意した素材は以下の様なものです。

  • 前回ご説明したライティングに応じてパスを3つに分けたキャラクター・レイヤー
  • 同様の方法で分けた背景レイヤー

そしてそれぞれのレイヤーにはZ(デプス)のパスも含まれています。Mayaではレンダー・パスはファイル名の設定で別々のファイルに書き出すことが可能ですが、1つにまとめた(マルチチャンネル)EXRに書き出した場合でも、fnordという会社が出しているPro EXRというプラグインを使えば問題なくPhotoshopに読むことが出来ます。作例でも使っています。


多くの場合コンポジットの手順は極めて似ており、まず素材のアンチエイリアシングがかかっていたり、半透明になっていたりする部分、つまりプリマルチプライ部分のピクセルの色をリカバリーすることから始まります。リカバリーというのはやや正しくない表現ですが、要するにマスクの値でピクセルの色を除算することです。これをやっておかないと、こうした部分にガンマやルックアップテーブルなどを使ってカラーコレクションを行っても正しい色になりません。Nukeなどのコンポ専用ソフトではUnpremultiplyノードや同様の機能が読み込みノードに備わっていたりして、簡単に出来ます。Photoshopでもこれは簡単でして、メニューのLayer -> Matting -> Remove Black Matte(すいませんが私のPhotoshop英語版ですので、日本語で上手く読み替えてください)を選べば同様の処理が出来ます。下のイメージはメーガン・フォックスの髪の毛の部分をアップにしたもので、左が処理前、右が処理後のものです。



この後、各ライティング・パスの輝度やコントラストを調整してマージします。Photoshopの場合、カラーコレクションの多くの機能が調整レイヤーに対応しているので、この辺は便利です。レンダリング時に特定の部分が明るくなってしまったり、逆に暗くなってしまった場合、ロトを切って補正する場合もありますが、今回は特にやりませんでした。カラーコレクションが一通り済んだらマスクを使って再びマルチプライのイメージに戻し、背景と合成します。今回は素材がCGのみでしかも静止画ですのでやることは少ないですが、動画でしかも実写の素材が入ってくると、キーイング、ガーベージ・コレクション、トラッキングなど、やることは多くなります。

基本の素材が組み終わったら、最後は光学エフェクトを追加して出力します。光学エフェクトとは実写を撮影する際に撮影機材、つまりカメラの、特にレンズから来る特性を画像に対して追加する、というもので、フィルム・グレイン、DOF、レンズ・フレア、レンズ・ディストーションなどは皆これに入ります。特にレンズ・ディストーションはCGを実写に合わせる際には非常に重要な要素ですが、今回はCGのみですので追加しませんでした。作例では以下のエフェクトのみが追加されています。

  • DOF (Depth Of Field)
  • Vignette(周辺光量落ち)
  • フィルム・グレイン

まずDOF(厳密には浅いDOFの効果ですが)ですが、CGではおなじみのデプス・パスを使ったブラー処理により実現しています。Photoshopの場合、メニューのFilter -> Blur -> Lens Blurを選ぶとこの効果が作れるウィンドウが開きます。Sourceからデプス・チャンネルを選び、Iris -> Radiusでボケ幅を調整していきます。「写真を撮ってみる その3」でも指摘しましたが、このブラーが強すぎるとスケール感を著しく損なうので注意が必要です。とはいえ今回はポートレートですので、ある程度はキャラクターにボケがかかっていても問題ありません。以前ご説明したように、今回の作例はイベント会場でのプレス向け撮影セッションを想定していますが、この場合距離はおそらく3〜10メートルくらいと割と近いのですが、なるべく被写体全体をフォーカスさせようと絞りを絞り気味にして撮影するのではないかと想定しました。そこで、メーガン・フォックスのカメラから遠い側の目がわずかにフォーカスから外れている、という程度のブラーをかけています。下の画像は彼女の目のアップですが、上が処理前、下が処理後のものです。


Vignetteとは日本語で周辺光量落ちを意味するもので、発音的には「ヴィニエット」という感じでしょうか。この周辺光量落ちと後でご説明する色収差は、本来はレンズの特性上やむなく起きる望ましくないものなのですが、特にこの周辺光量落ちに関してはむしろ味として効果に使われる場合が少なくありません。多くの場合、レンズの性能が低ければ低いほど周辺部の光量が落ちてしまうため、暗くなってしまう訳ですが、これが人の視線を自然に画面中央部に誘導する効果があります。そこで、実写だけでなく、フィーチャー・アニメーションなどでもあえてコンポジットでこの効果を追加することがあります。やり方は極めて簡単で、円、もしくは楕円でくりぬいた黒いレイヤーにブラーをかけ、元の画像に掛け合わせてやればいい訳です。

最近では劇場で公開される映画もほとんどがデジタルのカメラで撮影されるようになってきたため、フィルム・グレインを入れるというのは奇妙な感じがします。しかしシェーディング情報が極めて均質に計算されるCGにおいてはフィルム・グレインを入れるのは絵に自然な落ち着きを与える効果の1つです。デジタルにもデジタルノイズが出るではないか、という話もありますが、デジタルノイズはセンサーが捉えた光の電気的信号を増幅する際に起きるものであり、フィルム・グレインに比べるとかなり汚く、出来れば見えないにこしたことはないので、あえて追加する必要はないでしょう。PhotoshopではFilter -> Noise -> Add Noiseというややフィルムグレインに近いフィルタがあるので、これをそのままはのせず、白く塗りつぶしたレイヤーにかけて、調整レイヤーのHue/Saturationと組み合わせたものを元の絵に掛け合わせると、絵の出来上がりをみながらグレインの案配を調整できます。これでほぼコンポの作業は終わることになります。


なお、今回はやりませんでしたが、もう1つの光学エフェクトに先にお話しした色収差というものがあります。これは英語ではChromatic Aberrationというのですが、これはレンズの屈折率が光の波長によって異なるため、結像した際に色ずれが起こる現象のことを言います。写真好きにはこれは頭の痛い問題で、綺麗なボケを出そうと絞りを開けるとこの問題も増幅されてしまいます。「写真を撮ってみる その4」でもご説明しましたが、Lightroomの様な現像ソフトを使ってなんとか取り除こうとするのですが、なかなか綺麗には取れないものです。これはほとんど気づかない程度、ごくわずかにエフェクトとしていれると若干リアリティが増して見えます。下のビデオはNukeを使ってこの色収差を作り出す説明です。


ということで、長くなりましたがライティングのお話を6回にわたってお送りしました。何かのお役に立てれば幸いです。

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