ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2014年3月6日木曜日

映像産業の補助金制度について考えてみる その7

木村でございます。このブログでこれまで何度かアメリカのVFX産業の窮状についてお伝えしてきましたが、多くの方がこの状況を耳にされるようになってきたようで、最近「木村さん大丈夫ですか」とか「生きてますか」とかご心配の声を頂くようになりました。大変ありがたいことです。私も正直なところ言って決して楽な状態ではないのですが、なんとかやってはおりますので、ご安心ください。仕事は相変わらず少ないですが、幸いこのブログで最初の頃にお話ししたプロダクション・パイプラインとワークフローに関してご賛同頂いた幾つかの日本の会社から、アメリカからリモートでもいいから手伝ってくれないか、とのお誘いを頂いて、協力をさせて頂いております。また、今月は短期でThe Millという会社でCMを作る仕事もしております。このThe Millという会社、本社はイギリスのロンドンなのですが、LAにも支社を構えており、どちらかというとデザインを重視した制作方針でやっているようです。実は先頃あったアカデミー賞の授賞式の中で使われた映像のデザインも手がけておりまして、私は関わってはおりませんが会社はそれで結構盛り上がっておりました。

さて、そのアカデミー賞ですが、このブログをお読み頂いている向きにはご存知の方も多いかと思いますが、昨年に引き続き、今年もVFX業界のデモ行進が行われました。このデモ行進がどういったもので、昨年がどういった状況だったかは私の昨年の投稿をお読み頂けるとおわかりになります。で、今年なんですが、先にお話ししますと私は今回は参加しませんでした。というのも今年は雨が降っていたからで、やはり遠足などもそうですが雨はかなり行く気が萎えます。実はLAは数日前まで1、2週間続けて雨が降りまして、LAの北東にあるAzusaという街では民家のバックヤードに土石流が流れ込むという大変な状況になっておりました。

そういう訳ですので今回のデモの様子は報道された範囲のことしか知らないのですが、大体以下の様な点がポイントかと思います。
  • 参加者は昨年の480人程度を上回り、540人近くに達したそうです。これは自宅でおやつを食べながら事態を憂慮していた私にはかなり心強いニュースです。
  • 昨年のデモではテーマが補助金制度からVFX業界の労働組合や待遇改善などやや焦点が定まっていませんでしたが、今年はほぼ諸外国の補助金制度にターゲットを絞ったようです。これはデモの先頭に立ったのがこの制度の反対派の急先鋒であるVFX Soldierこと、Daniel Layであったこともかなり影響しているかと思います。
ところで、この映像産業における補助金制度に関してここ最近あった一番興味深い動きは実はこのデモ行進ではなく、それよりさかのぼること数週間前にあったアメリカの映画会社を代表するMPAAという組織のある法的な申し立てにあります。

デジタル・コンテンツの定義とMPAA

これを一番最初に報じたのは、主にシリコンバレー発のテクノロジー関連のニュースを扱っているPando Dailyというサイトです。

REVEALED: MPAA’s latest anti-piracy move accidentally, completely screws Hollywood studios

記事によりますと、ハリウッドの映画会社のロビー団体であるMotion Picture Association of America (MPAA)が申し立てていたある訴えを、VFX Soldier Daniel Layの法律チームが、Pandoがこの記事を記載する2週間ほど前に発見していたということです。これは主に3Dプリンターなどからデジタル・コピーを作ることで著作権を侵害するケースを想定したもので、いわばデジタル・コンテンツの海賊版を取り締まる法的な根拠として、「デジタル・コンテンツは知的財産が形を変えた、いわば輸入品であり、国際貿易上のルールにのっとって不公正な貿易相手国などから保護すべき対象である」と訴えています。長年にわたって海賊版に苦しめられてきたハリウッドの映画会社とすれば、当然の訴えとも言えますが、では何故これが注目を集めることになったのでしょう。

私のブログの以前の投稿「映像産業の補助金制度について考えてみる その5」で書きましたが、Daniel Layの法律チームは映像産業の補助金に対抗する策として、国際貿易上のルールとして補助金を利用して作られた輸入品は不公正貿易にあたるため、懲罰的な関税(CVD)の対象になりうる、というアメリカの国内法を用いる可能性を模索していました。ただし、この方法には幾つか弱点が存在します。

一つはデジタル・コンテンツがこの法律で保護の対象となる様な「輸入品」として認められたケースがこれまでない、ということです。そしてもう一つが、こうした制度を実際のケースに照らし合わせて施行するためには議会での承認が必要ですが、映像産業の補助金制度に反対する訴えは過去に既に議会での検討そのものが退けられたケースがあるのです。これはやはり私のブログの以前の投稿「VFX業界 タウンホール・ミーティング」で触れられていますが、とりわけ今のオバマ政権はハリウッドの映画会社から莫大な支援を受けており、この問題を取り上げる事自体を拒否している、と伝えられています。以前お伝えしたDreamWorks Animationでのデモもこうしたオバマ大統領に対するVFX業界側のいらだちが背景にあった訳ですが、大きなロビー組織が存在しないVFX業界にとってはこの話を議題に載せること自体がそもそも至難の業なわけです。

MPAAの訴えがとりもなおさず注目を集めたのは、実にこのCVDを実現するための弱点をMPAA自らが意図せずして補強して助けてしまったということにあります。今後VFX業界がCVDの適法性に関して疑問を差し挟まれた場合は、他ならぬMPAA自らの「デジタル・コンテンツが疑う余地のない輸入品である」という主張を突きつければいい訳ですし、MPAAの主張が議会で取り上げられることがあれば、その輸入品が補助金を使って作られていることの適法性に関しても議論することを強く要求できることになります。

もちろんこのPandoの記事に対してMPAAは反発しており、彼ら曰く「VFXはサービスであってコンテンツではない」ため、自分たちは問題なく補助金を利用することが出来る、と主張しています。この主張は我々VFX業界の人間にとってみれば無理のある言い分に聞こえますが、MPAAは6大映画会社を代表する強力な組織であり、白い物も黒と言いくるめられるだけの優秀な弁護士を何人もそろえているでしょう。この点に関して心配なのはDaniel Layの法律チームです。彼はこの問題をコンサルティングしてもらうためだけに1万3千ドル近い金をクラウド・ファンディングでかき集めてワシントンに乗り込んでいきましたが、今後継続的にMPAAとの戦いに備えるとなると、いくら金があっても足りないでしょう。彼はことあるごとに支援者を捜しており、上手く行きそうだ、といったことを言っていますが、実際に事が前進しているという話はまだ聞きません。もちろんまだ言えないだけで、本当に上手くいっているのかもしれませんが、私は懐疑的です。そういう訳ですので、まだまだ楽観できる要素はないのが実情ですが、以前はこの動きを歯牙にもかけなかったメディアが、次第に報道するようになり人々の知るところとなってきたのは、良いニュースと言えるでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。