ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2014年7月4日金曜日

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木村でございます。こちらアメリカは今日7月4日が独立記念日です。私の自宅からほど遠からぬところにMarina Del Reyというヨットハーバーのある港町があり、ここでは独立記念日の度に花火を打ち上げるのですが、私は仕事で自宅に缶詰でして、今その花火の音だけが聞こえてくる、といった有様です。それはさておき、これまで何度か業界の動向をテーマ別にお送りしてきましたが、これかはらそれぞれのニュースを個別に読み解いていく形でお送りしたいと思います。


Double NegativeとPrime Focusの合併

皆さんのご存知かと思いますが、先月6月25日にイギリスのVFXスタジオDouble Negative (DNeg) とインドのメディアグループPrime Focus Worldの子会社Prime Focusが合併する事を発表しました。

http://www.moneycontrol.com/stocks/reports/prime-focus-double-negativeprime-focus-world-merge-hollywood-vfx-business-819585.html

http://variety.com/2014/biz/news/prime-focus-double-negative-merge-1201246452/

この合併はPrime Focus側がDNeg側を吸収する形で行われたと見られ、Prime Focus側がDouble Negativeを合併するために投じる資金はUSドルにして8500万ドル程度と見られています。とはいえ、Prime Focusが最も欲しかったのはDouble NegativeのVFXスタジオとしてのブランドでしょうから、今後のスタジオ運営はDouble Negativeの名前を全面的に押し出していくものと見られます。さらに興味深いのはこの合併の後、7月2日に、やはりインドのファイナンシャル・グループReliance CapitalがPrime Focusの買収を発表した事です。

http://www.moneycontrol.com/news/business/equity-infusion-to-fund-double-negative-merger-prime-focus_1118157.html

http://variety.com/2014/biz/news/reliance-mediaworks-to-buy-into-prime-focus-1201257580/

Reliance Capitalは皆さんもご存知のDigital Domain (DD) のオーナー会社であるReliance MediaWorksの親会社でして、この2社が合併するという事は、1つのインドのメディア会社がDNegとDDという世界の二大VFXスタジオを傘下に置く、という事になります。RlianceやPrime Focusは以前からハリウッド映画を手がける大手VFXスタジオの買収劇に度々その名前が取りざされてきましたが、今回の2重合併により1つの折り返し点に来たと言えるでしょう。

もう1つの興味深いニュースは、この合併のプレス・ノートの中に、DNegがVancouverに支社を開設する事が記載されている事です。先だって私のブログでも触れましたが、Vancouverには既にDDやSony Pictures Imageworksも本拠地を移しており、大手のVFXスタジオがほとんどVancouverにそろった事になります。DNegと言えばその本拠地はイギリスのロンドンであり、映画業界に対する手厚い補助金制度に守られているはずです。また、カナダにはVancouverの他にも補助金を導入している都市がケベックやオンタリオなどにもあるはずですが、なぜVancouverに進出する必要があるのでしょう。

これはかつて大手のVFXスタジオがLAに集まっていた事と同じ理由によります。多くのVFXスタジオは、プロジェクトの合間合間に発生するダウンタイム(仕事のない期間)にアーティストを雇用し続ける余裕がないため、プロジェクトが終わるとレイオフを行います。しかし、新しい仕事が受注できて走り始めると、すぐにでもアーティストを雇う必要があります。かつてLAには多くのVFXスタジオが存在し、それぞれ競争しながらも、こうしたアーティストを融通し合ってVFX業界が1つの循環系を築いていました。私もかつてSony Pictures Imageworksで働いていた頃、プロジェクトが終わりに近づくとDDやAsylum VFXといった近隣のスタジオからリクルータがやってきて、Sonyのスタジオの一角に陣取り、アーティストをリクルーティングしていたのを覚えています。

この循環系の外にある場所でVFXスタジオを運営すると、レイオフが難しくなったり、レイオフしても次に仕事が始まったときにアーティストがいない、という状態になってしまいます。かつてSonyは補助金目当てでニューメキシコ州のAlbuquerqueという街にスタジオを開設した事があります。最終的にはニューメキシコ州がこの補助金をやめてしまったため撤収しましたが、ここをあきらめた理由のもう一つに、このVFXの循環系から外れた場所に進出したため、思うように人手を集められなかった、という事もあると言われています。

Vancouverに進出しているスタジオの多くは、元々は補助金目当てだったのでしょうが、いまやここは世界中のスタジオが進出してくる、まさにVFX業界のハブと化しています。優秀な人材が道を一本挟んだところにある別のスタジオを渡り歩くようになり、スタジオ側はいつでも彼らを雇えるような環境が出来上がっています。補助金はもちろん大事ですが、何よりも人材がここに集まっている事がもはやどのスタジオもVancouverを無視できなくなっている理由なのです。かつてこのポジションにはLAがいました。しかし残念ながらもうLAはそういう街ではなくなってしまいました。

カリフォルニア州の補助金制度に関する法案が上院を通過

我々アメリカのVFX業界関係者にとっては寒風の吹くニュースばかりですが、ここにきてカリフォルニアで1つ注目するニュースがありました。業界紙Varietyによると、カリフォルニア州の州議会で、映像産業に対する補助金制度を支持する法案が上院を通過した、との事です。

http://variety.com/2014/film/news/legislation-to-boost-california-tv-and-movie-tax-credits-advances-1201246686/

これは州提案1839と呼ばれるもので、カリフォルニアで制作される映画やテレビの、VFXや音楽といったポストプロダクションを含む制作費の20から25%程度を補助金によってまかなおう、という制度です。カリフォルニアにはこれまでもこうした補助金制度がありましたが、年間1億ドルという上限が設けられていた上、ハリウッドの映画会社が作るような大作映画は事実上この制度から除外されていました。今回はこの補助金制度のためにどのくらいの資金が確保されるのかは明確にされていませんが、これまでより大幅に拡大されたものであるのは確かなようです。ただ、この制度について上院議長のLois Wolkは「これは金額の書いていない小切手と同じであり、この点は憂慮される」と述べ、いったいどの程度の資金をこの補助金制度につぎ込むのかを明確にするよう述べています。

また、20から25%という割合は他の競合都市、VancouverやLondonに比べると見劣りするものであり、正直なところ今更どの程度の効果があるのかはわからないところです。いずれにせよ、このニュースは進展があり次第またこのブログでも取り上げたいと思います。

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