ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2015年1月2日金曜日

外国人を雇ってみる その1

木村でございます。新年明けましておめでとうございます。このブログものらりくらりとやりながら、ついに3年目に突入しました。正直言いますと、去年の末でもうやめてもいいかな、とも思ったのですが、「読んでるよ」と声をかけてくださる知り合いもいますので、とりあえずネタが続く限りは続けようと思った次第です。そういうわけで本年もよろしくお願いします。

年明けの一発目は、日本のプロダクションが、外国人のCG屋を雇うことを考えてみたいと思います。一昨年縁があってある日本のプロダクションで仕事をさせて頂いたんですが、その時一緒に働いてくれたアーティストの一人がイギリス人でした。また日本滞在中、あるオーストラリア人の業界関係者と会食させて頂くチャンスがあったのですが、彼は日本でCGプロダクションを経営しており、アーティストにも外国人が多いとの事でした。その一方でこちらアメリカでも、職場の同僚のアメリカ人で日本びいきの人に結構会います。日本が好きで日本文化を勉強しているとか、日本に数ヶ月滞在した事がある、などという人にだいたいどこのプロダクションでも会います。今CG屋はいい意味でも悪い意味でも世界中を飛び回って仕事をするのが当たり前になっていますから、その選択肢の1つとして日本を選ぼうとする人が出てきても、それほど不思議ではないでしょう。しかしこうした雇う側と雇われる側の思惑の違いから、軋轢が生まれる事も少なくありません。そこで、彼らの間に発生しやすい典型的な問題を私の経験も絡めてお話ししたいと思います。

交渉ができない

プロフェッショナルのアーティストを雇う場合、フリーランスであれ社員であれ契約交渉というものが必要になります。ハリウッド映画のVFXを手がけてきたようなアーティストは結構なギャラをもらっている人も多いですから、日本の多くのプロダクションにとっては予算にフィットしない、という場合も多いでしょう。ただ、私自身もこちらでいろんなプロダクションでやってきた経験からいいますと、単純にお金だけで仕事を請け負うかどうかを判断するのはむしろまれです。仕事の内容自体クリエイティビティを問うものですから、自分のやりたい仕事が出来るか、一緒に働く人達がどんな人かなど、単純にお金でかえられない部分での判断も多いため、まずは話をして条件を聞きたい、という事になります。しかし日本のプロダクションの多くはどうも交渉が苦手な人が多い様に感じます。私がいろいろ聞き及んだところでは、特に日本人に多い交渉上の流れに、以下のようなものがあります。

  • 交渉をいっさいせず、相手のいう事を丸呑みしてしまう
  • 条件を聞いただけで交渉を断念し、話を打ち切ってしまう
  • 相手の持ち出した条件に激怒し、なじる

まず最初のケースですが、相手の条件が納得いくものでないにもかかわらず、OKをしてしまうパターンです。OKをしても納得していない訳ですから、あとで全てが済んでしまってからブツブツをと文句を言い出す人もいます。このパターンが日本人に多い理由には恐らく、交渉事自体を対立の構図として受け止めてしまう人が多いからではないかと思います。日本人は他人と直接対立する事を非常にいやがる民族であり、可能な限りそれをさけるために、相手の意図をあらかじめ汲む事をよしとする美学があります(いわゆる空気を読む、というやつです)が、それが極端な方向に振れてしまったケースと言えるでしょう。2番目はこれまた日本人に多い「仕方ないとすぐあきらめる」パターンです。欧米の人たちは、ビジネスでは交渉するのが当たり前であり、交渉とはお互いの(始めはほとんど合致する事ない)利害関係をすりあわせて、双方が納得するポイントを探り当てていくプロセスだと考えます。よって、条件を提示しただけでいきなり話を打ち切るのはその条件が自分たちの条件とよほど遠くはなれているという場合を除けば、あまりありません。

この2つのケースに関して言えるのは、やはり交渉のスキルのなさです。日本では交渉をする訓練を受けるチャンスはほとんどないといっていいので、仕方がないのかもしれません。一方アメリカでは、学校でディベートのクラスなどを通じて交渉スキルを磨くチャンスがあります。この国に住んでいるとよくわかるのですが、大概どんな事にでも交渉する人というのが必ずいます。そして、驚くほどそれを受け入れる人も多いです。この国ではルールというのあくまで不完全なものであり、双方が納得出来るのであれば、どんな事であれ話し合う、という前提があるのでしょう。日本ではアメリカを「訴訟社会」と呼んでネガティブに考える人が多いですが、私これまで住んできて感じたのは、とにかく納得できない事はあきらめずに話し合いの場に持っていく、というのが彼らの態度であるという事です。

3番目のケースは交渉の当事者同士を「事業者と顧客」という関係で見てしまう人に多いケースです。つまり仕事を発注する側はお金を払う以上顧客であり、日本的な見地から言えば「お客様は神様」な訳ですから、その客に意見したり条件を出したりするとはとんでもない、という考え方です。私も以前、とある日本のクライアントから仕事を受け、条件を出してくれと言われたので金額を提示したところ、高すぎると激怒された事がありました。条件に納得できないのであれば話し合いをすればいいのですが、顧客に交渉を要求してくるような事業者は生意気だ、という事なのでしょう。お金を払う側がお客、というのはその通りですが、これも欧米では「事業者と顧客」にそこまで極端な上下関係というのは存在しません。また、そもそも映像制作の現場ではクライアントとベンダーの関係はスーパーマーケットの客と店員よりはより密接なものです。今は亡きVFX業界の大御所スタン・ウィンストンは、自分をクリエイティブ・パートナーと見なしてくれるクライアントを大事にしている、と言っていたそうですが、これはアメリカの多くのVFXアーティストも同様に感じている事なのではないでしょうか。

交渉はもちろん面倒な作業ですが、ここで誤解のない様にすっきり話しておくかどうかで、その後の展開が変わります。もし相手の条件が受け入れられない場合は、言下に否定するのではなく、代替案を提示する(ギャラを低く提示する代わりに、福利厚生や手当などに言及する。ちなみにアメリカでは交通費を出してくれる会社はあまりないので、そういった点を強調するのもいいでしょう)など、うまく合意できそうなポイントをお互いに提示しあうのです。もちろん交渉の苦手なのは日本人だけでなく、欧米のアーティストにも話の通じない者や妙にプライドの高い人はいます。そういう人達とは早々に話を打ち切って関係を持たない様にしてもいいと思います。逆に言えば、交渉の苦手な日本人も相手からそう思われている、という事です。

最後に、交渉で絶対やってはいけない事に、交渉で合意した事と、実際の契約内容を変える事です。話し合いの場ではいろいろいいことを言っておきながら、いざ契約書にサインをしようとした瞬間それをひっくり返すような事です。こういう不誠実な対応は必ず会社の名前を傷つけますし、場合によっては法廷闘争に発展しかねないので、くれぐれも注意したいものです。

次回はコミュニケーションの問題に関してお話ししたいと思います。

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