ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2015年2月10日火曜日

外国人を雇ってみる その2

木村でございます。外国人を雇ってみる、と題した2回目ですが、実は私今月から長期の日本出張で、このブログを日本のホテルから書いております。今回はLAの自宅をクライアントが雇ってくれたマネージメント会社とDropcomのセキュリティ・カメラで見張りをかけるくらい長期でして、このブログもしばらくは日本からお送りすることになるんですが、ブログの内容自体は変わりありませんので、いつも通りお付き合いください。

コミュニケーションがとれない

では前回からの続きのお話をさせていただきます。私の知り合いのアメリカ人に大層な日本びいきがいまして、彼は漫画やアニメといったポップカルチャーよりも文化や芸術に興味がある手合いでした。休み時間に会社で英訳された宮本武蔵の本を読んでみたり、自宅で蕎麦を打ってみたり、弓道に励んでみたりとかなりの通です。当然日本で働く事を考えた事も何度かあったそうですが、結局コミュニケーションの事を考えると踏ん切りがつかない、との事でした。

ハリウッド映画の制作に関わった優秀なアーティストで、日本に興味を持っているという人達はたくさんいますが、その中で日本語が話せる、という人はほとんどいません。これは現実問題として仕方ないでしょう。日本語は日本という国でしか公用語として使われていませんし、複雑で非常に覚えにくい言語です。先の知り合いも何度か勉強しようとしたようですが、結局断念したようです。従って、日本のプロダクションが日本人以外のアーティストを雇う場合は、本人がそう言っている場合を除いては、日本語をしゃべる事を期待するのはやめた方がいいでしょう。では代わりにどうするか、という事ですが、ベストは日本側の現場の人間が全員英語をしゃべれるようになる事です。しかし我々日本人が英語が大の苦手である事は私自身身にしみていますから、これもそう簡単ではないでしょう。

そうなると一番手っ取り早い方法は通訳を雇う事ですが、これが実際には非常に難しいのです。これは私自身がかれこれ十何年も前にハワイで当時のスクウェア(現スクウェア・エニックス)の現地法人で働いていた頃の経験から感じた事ですが、通訳を通じて話をする事にはいくつかの問題があります。あらかじめ申し上げておきますが、これは通訳という仕事をしている人達の問題ではありません。彼ら自体は非常に高度な技能を有するプロフェッショナルであり、うまく使えば非常に役に立ってくれる人達です。では問題は何かと言いますと、まず1つには誤解や誤訳が含まれる、という事です。これは人間が訳している以上当然の事であり、自分で英語をしゃべっていても間違う事はよくある事ですから、通訳の間違いだけを責めるのはフェアではないような気がします。問題は通訳が間違う事ではなく、通訳が間違った事を気づかないまま当事者たちが話を進めてしまう事です。

我々がハワイで仕事をしていた頃、スタジオには日本とアメリカだけでなく、世界20カ国以上から様々な国の人達が集まり一緒に働いていました。当時スクウェアはCGを使って映画を作っており、社内では高度なCGの技術を使ってどうやって映像を制作するかについて議論が飛び交っていました。当時現場では日本人とそれ以外の国のスタッフのやり取りを介してくれる通訳がいましたが、彼ら彼女らは実は本業がコーディネーターであり、通訳業務はその本業の間を縫って行われていたのです。多くのコーディネーターは通訳はこなした事があるがCGプロダクションでは働いた事はない、逆にコーディネーター業の経験のあるバイリンガルだが、通訳はやった事がない、という人達でした。彼らは日本人とアメリカ人(やそれ以外の国の人達)が話をするたびに呼びつけられ、高度な専門用語の混じった会話をその場で翻訳するよう要求され、その一方でスケジュール管理やアーティストのマネージメントもしていた訳です。しかし、当時の多くのスタッフは一旦会話が始まってしまうと完全に通訳にお任せモードになり、会話に誤解や誤訳が潜んでいる事をあまり気にしませんでした。

これは実はもう1つの問題と繋がるところがあります。それは、通訳を介すると当事者同士の会話ではなくなるような感覚が生まれる、という事です。なんだかうまい事しゃべってくれる人が隣にいるので、話の内容までうまくまとめれくれるような気になってしまうのです。ハワイのスタジオでは、普段仕事の話をするコーディネーターが通訳も務めてくれていたため、この傾向がさらに顕著でした。また、会話の直接の相手が通訳になるため、実際に会話している相手と意思を疎通しているという感覚が生まれにくい、というデメリットもあります。これは直接会って話さずに、メールだけでやり取りをする感覚に似ています。

では通訳を使ってどうやって上手にコミュニケーションを成立させるかですが、私がこれをうまくやっている人達を観察していると、だいたい共通点があります。まず、通訳を介する場合でも、最初の挨拶や、短い(そしてだいたい個人的な内容の)会話は自分でやる、という事です。これを最初にやる事で、例え話が通じない相手でも打ち解けた雰囲気を作り出す事が出来ます。そして会話が始まったら、話の内容を伝えるのは当然まず通訳に対してですが、ことあるごとに実際の話し相手にも視線を送って「あなたに話しているんですよ」と言う事をアピールしようとします。そうする事で、相手もたとえ言っている事がわからなくても「何か重要なことを言っているんだな」ということが伝わります。通訳を使えば、通常のスピードで話をしても2倍の時間がかかってしまいます。ですから話は長くならないよう留意すべきでしょう。長くなりそうならテーマを絞って、何回かに分けた方が無難です。これをやらずに4時間近いミーティングをやった事が1度あり、だいぶアメリカ人から信頼をなくしました。

会話が終わったら、後でメールなどで内容を確認するようにします。この場合は辞書を引くなどして、出来るだけ自分で書くようにするのがポイントです。CCでその時の通訳者にも送るとなおよいです。この時もう1つ大事なのは、メールで送るのは、あくまでも内容の確認だけです。新たな議題を持ち出して、議論を始めようなどとするのは出来るだけさけた方が無難です。これは通訳を使わない会話でも同様です。英会話に不慣れだと、直接話すのが怖くて何となくメールで会話しようと思ってしまいます。先に書きましたが、メールの会話は直接相手と会話しているような感覚がわきにくいため、普段相手の顔を見ながら話すときには言わないような不用意な事を言いがちです。まして英語だと、それがどれだけのインパクトを与えるかも理解しないまま送ってしまったりします。私はこれに関して数々の苦い経験がありますので、これをやらない方ががいい事だけは請け合えます。どうしても議論になりそうな事を話さなければならなくなったら、メールでは議題の内容をサマライズしたものだけを送り、後は直接相手に会って話すように努めるべきです。

次回は人間関係の違いについてお話ししたいと思います。

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