ハリウッドVFX業界就職の手引き

ハリウッドVFX業界就職の手引き
鍋潤太郎氏による、海外のVFX業界で働くための手引き。お薦めです。

2016年4月24日日曜日

Shotgunを使って見る その1

木村でございます。4月ももうすぐ終わりですが、1つ業界的に気になるニュースが入ってきました。レンダリング・ソフトウェアArnoldを開発しているSolid AngleがAutodeskに買収された、という件です。

https://www.solidangle.com/news/solid-angle-joins-autodesk/

Autodeskがレンダラを開発している会社を買収すること自体は多くの人にとって特に驚きではないでしょう。特にMayaユーザーにとっては、旧Aliasがかなり初期の段階で同ソフトウェア用のプロダクション・レベルのクオリティに耐えうるレンダラの開発を止め、長年にわたって他社からライセンス・供与を受け続けていることを奇妙に感じていた人も少なくないはずで、むしろなぜこんなに時間がかかったのかの方が疑問なのではないでしょうか。問題はArnoldが今のAutodeskの3Dソフトウェア利用者にどういう形で提供されるのか(Mayaユーザーはすでに利用可能ですが、Max版はまだないはずです)、その場合のライセンス料がどういう形になるかでしょう。また、Houdini版やKatana版の利用者も今後が気になるのではないかと思います。

そしてAutodeskといえば、ここ最近大型買収が続いているところも気になるところです。2005年にAliasを買収してMayaを傘下に収めて以来、Softimage、Naiadなどを続けて買収し、2014年にはプロダクション・ワークフロー及びパイプラインをサポートするためのサービスとして有名なShotgunも傘下に収めました。このことから、Autodeskはハリウッド映画のビジュアル・エフェクツを手がけるようなプロダクションの上流から下流に至るまでの全てをおさえるソリューションを、全て自社の製品でカバーしようとしていることがわかります。そこで、今回から何回かにわたって、主にShotgunに焦点を当てながら、プロダクション・パイプラインをサポートするクラウド・サービスについてお話ししていきたいと思います。

Shotgunとは何なのか?

まずこの手のサービスを使ったことのない方にとって、一番の疑問はこれが何で、一体何のために使うのか、ということでしょう。

https://www.shotgunsoftware.com

短く言えば最初に書いたようにプロダクション・ワークフローやパイプラインをサポートするためのアプリケーション群、及びサービスの総体を指して言うものであり、特定のソフトウェアや純粋なストレージ・サービスなどを提供しているものではありません。ソフトウェアに関して言うのであれば、これらのパイプライン・サービスはむしろ一部の機能を除いては、既存のCGソフト(Maya, Max, Nukeなど)を使うことが前提とされています。そしてShotgunのようなサービスは、これらのアプリケーションを使って作られたデータを管理したり、それらのアプリケーションからの情報を結びつけたり、そうした情報やユーザーのタスクをデータベースで管理する機能を提供しているのです。

Shotgunのようなサービスが漠然としているように感じるのは、このようにこれ自体が何かを作り出すというよりも、このサービスがプロダクションの様々なセクションやデータをつなぐ役割を果たしているものであるためと言えるでしょう。Shotgunが提供しているようなサービスを物理的に分離すると、主に以下のような要素になるかと思います。

  • プロダクションの情報を管理するデータベース
  • アートやレビュー用の素材を管理、保存しておくためのストレージ
  • データベースを編集、ビューイングするためのウェブ・アプリケーション
  • 既存のソフトウェア上で利用できるアドオン
  • ユーザーが上記の機能をカスタマイズするためのAPI

この他に、Shotgunではプレビューに使うためのソフトウェアRVなどもバンドルしていますが、ここでは割愛します。そして、これらの物理的な環境をユーザーに使わせるために、以下のようなサービスが提供されていると考えられます。

  • データベース、及びストレージの冗長化(バックアップやメンテナンスによる安全性の確保)
  • ウェブ・アプリケーション、アドオンなどのソフトウェアの機能強化、バージョンアップ、バグフィックス
  • ネット・アクセス環境の整備、セキュリティ・サポート
  • ユーザー・サポート、エデュケーション・サービスなど

ちなみに、このようなサービスはShotgunだけでなく、幾つかの競合サービスが存在します。以下のものがその代表的なものです。

  • ftrack ... スェーデンの会社によって開発されており、そのためかヨーロッパで比較的よく使われています。Shotgunの最大のライバルと言える製品です。
  • TACTIC ... もともと映像制作スタジオに特化していたわけではなく、ワークフローをノードベースのUIで管理する機能が売り。Shotgunやftrackに比べるとややマイナーです。

誰が使うのか?

Shotgunのようなサービスが登場する以前は、ハリウッドのCG、VFXプロダクションはそれぞれが独自のプロダクション・パイプラインを構築していました。つまり自前でデータベースやウェブ・サーバーを立て、アプリケーションを自分たちで書き、専任のシステム・エンジニアやプログラマーがそれらを管理、サポートするというものです。こうしたことは今でも多くのプロダクションで行われていますが、自前でエンジニアやプログラマを雇い、システムを構築することは、中小のプロダクションにとっては敷居が高いものです。とはいえ、長編映画のVFXやアニメーションの制作工程をエクセル表や帳簿だけで管理するのはかなり難しいですから、RedmineTracなどのフリーのプロジェクト管理ソフトにプラグインを入れたりしてだましだまし使っていたところも少なくなかったでしょう。

Shotgunはそうしたプロダクションに対して、クラウド上でワークフローやデータ、スケジューリングなどの管理機能を提供することで、スタジオ側が自前で行っていたことをサービスとして提供しようとしたわけです。結果、中小のプロダクションのみならず、ワークフローの管理をすべて自前で行うことを負担に感じていた大手のプロダクションもこのサービスを利用するようになりました。

では、全てのプロダクションがShotgunのようなサービスを利用すべきか、ということですが、これはプロダクション・スケールによって大きくその捉え方が異なります。Autodeskは小規模プロダクションでも利用メリットはある、と言うでしょうが、もともとShotgunのようなサービスはある程度プロダクション・スケールがあって、ヒューマン・リソースやデータ・マネージメントの管理にそれなりに手をかけないといけない規模を前提としているツールです。また、Shotgunを買ってそのまま使えるケースというのは稀で、大概自前のプロダクション・パイプラインにフィットさせるカスタマイジングが必要になってきます。ハリウッドのVFX、CGプロダクションではこれを専門にやる「Shotgun Developer」なる人たちもいるくらいです。また、Shotgunがあっても結局複雑なプロダクション・パイプラインを支えるために、別に自分たちでウェブ・サーバーやデータベース・サーバーを立ち上げているところというのも結構あります。

であるならば、Shotgunのようなサービスを使わず、最初から自前でやるよ、という人たちが出てきても不思議ではないでしょう。ではこのようなサービスを使わずに自前でやるとしたら、どのようなことを実際に行わなければならないのか。そして、その価値があるのか。次回はこの点についてお話ししていきたいと思います。


0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。